マイクロソフト(MS)が200億ドルの資金を投じて音声認識大手を買収する。MSの買収劇はこれにとどまらない。画像共有のピンタレストなども話題に上った。「むやみやたらに買収したがる」との評価もあるが、果たしてそうだろうか。

 「現金を持っていけ。さもなければ少なくとも当社の株式を持っていけ」──。この表現が最近、米マイクロソフトのスローガンになっているようにみえる。

 同社は2020年、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業を買収し損ねた後も、さまざまな買収交渉に関わっているとささやかれた。画像検索・共有サービスの米ピンタレストや、音声チャットの米ディスコードの名が挙がった。

 そして今年4月12日、マイクロソフトは音声認識技術大手の米ニュアンス・コミュニケーションズを約200億ドル(約2兆1700億円)で買収すると発表した。支払いは現金だ。同社にとって過去2番目に大きな買収となる。

 マイクロソフトはニュアンスをめぐる騒ぎが起こる前にも、「オフィス用ソフトの販売という中核事業とは縁遠いテック企業をむやみに買いたがる」と評されていた。

 例えばTikTokに投稿されるダンス動画と、ワードやエクセルなどのオフィスソフトとは関係性が薄い。5年前には、ビジネス用途をターゲットにするSNS(交流サイト)の米リンクトインを260億ドルで買収した。これは同社にとって最大の買収案件だ。18年には、プログラム共有サイトを運営する米ギットハブを75億ドルで獲得している。

 テック産業の話題を扱うウェブサイト「ザ・インフォメーション」は、「サティア・ナデラCEO(最高経営責任者)の退屈しのぎか?」といぶかった。観測筋は、ナデラCEOは同社の改革を成し遂げ、今度は企業買収に熱を上げているのだろうとささやく。だが実際のところ、同CEOには綿密な計算があるのかもしれない。

<span class="fontBold">相次ぐ買収交渉は、改革を成し遂げたナデラCEOの退屈しのぎなのか</span>(写真=AP/アフロ)
相次ぐ買収交渉は、改革を成し遂げたナデラCEOの退屈しのぎなのか(写真=AP/アフロ)

テック企業なら当たり前

 第1に、マイクロソフトの買収の動きは、大手テック企業の基準に照らしてみれば例外的なことではない。サンフォード・C・バーンスタインのアナリスト、マーク・モアードラー氏はこう評価する。

 業界では買収に関する噂がいくつも飛び交っており、恐らくその大半は事実だ。大手同士は可能性のある買収案件について定期的に情報を交換している。マイクロソフトは買収対象となり得る多くの企業について、その条件を記した概要書をそろえていると言って差し支えないだろう。

 ただし、同社は今も新規事業の獲得より既存事業の拡大に対してより多くの資金を注いでいる。今回のニュアンスの買収案件を除けば、過去4年の間に大型買収に費やした資金は330億ドル。これに対し、同じ期間に投じた研究開発費は640億ドルに上る。

ナデラCEOが就任してから急増
●マイクロソフトによる買収と投資
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出所:Bloomberg/The Economist
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 銀行には膨大な額の現金(20年末の時点で1320億ドル)を蓄えている。同社の株式は価値ある通貨として機能する(株価は、ナデラ氏が14年にCEOに就任して以来600%超上昇した)。独占禁止法違反で提訴され大型買収を避けている米アルファベットや米フェイスブックなどと異なり、マイクロソフトはもう当局のターゲットではない。

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