香港では3月半ばから新型コロナワクチンの接種が本格化した。だが接種率は8%にとどまる。背景にあるのは、人々から自由を奪った政府に対する不信だ。政府が奨励する中国製ワクチンは有効性が低い。このワクチンを不安視する医療関係者も、香港国家安全維持法違反となるのを恐れて口を閉ざしている。

シノバック製のワクチンを接種する林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官(写真=AP/アフロ)

 香港では3月半ば以降、30歳以上のすべての住民にワクチン接種を予約する権利が付与された。さらにぜいたくなことに、ワクチンを選択することさえ可能だ。米国の製薬大手ファイザーとドイツのバイオ医薬ベンチャーのビオンテックが共同開発したワクチンと、中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製ワクチンのいずれかを選ぶことができる。

 だが、十分な量のワクチンが供給されているにもかかわらず、接種を選択した人はわずか8%程度にとどまる。接種が進まないのは、過去2年にわたる政治の混乱により、政府に対する信頼が地に落ちているからだ。自由を奪われた香港の人々は政府が講じる措置を信用しておらず、新型コロナウイルスの抑え込みが一層困難なものになっている。

 香港のワクチン接種率は同様の地域に比べて大きな後れを取っている。例えばシンガポールでは既におよそ20%の人々が接種した。

 ワクチン接種が本格化する前の今年1月に実施されたある調査では、接種を希望する香港市民は37%にとどまった。現地メディアはワクチンを接種した後数日から数週間のうちに亡くなる人の数を数え続けている。ワクチン接種が死に至る人の数を減らす(増やすのではない)ことを示すエビデンスがいくつもあるにもかかわらず、ワクチンに対する懐疑の念が消えない。

シノバック製に特典

 香港の感染率はかなり低いため、副作用を懸念する人々はワクチン接種を先送りしても大丈夫だと感じている。

 香港政府は4月15日、16~29歳の人々も間もなく接種できるようになると発表した。

 香港において、ワクチン接種の本格化は極めて政治色の濃いものとなっている。シノバック製のワクチンに重要な役割が与えられていることが物議を醸している。シノバックは「フェーズ3」臨床試験のデータを査読付きの専門誌に公表していない。この公表は、重要な国際基準の一部を成している。

 シノバック製ワクチンの有効性は、ファイザー・ビオンテック製ワクチンや米モデルナ製ワクチンよりも低いとみられる。これらの欧米製ワクチンは新型コロナウイルスの感染リスクを90%以上低下させる。他方、シノバック製ワクチンの有効性は、臨床試験の結果を見ると83%から50%を若干上回る程度まで幅がある。

 50%は世界保健機関(WHO)が示すしきい値で、この値を超えれば一般的な使用に適すると判断している。

 中国疾病対策予防センター(CCDC)の高福主任は4月10日の会議で、既存の中国製ワクチンの有効性がそう高くないことを認めたかのように発言した。異なる種類のワクチンとの併用を検討するのが賢明な措置と指摘した(同主任は後に、発言が誤って解釈されたと釈明した)。

 香港のワクチン承認委員会は中国製ワクチンの有効性を検討するにあたって、ファイザー・ビオンテック製ワクチン(香港では中国医薬品大手の上海復星医薬集団が販売)や、専門家による厳しい評価を受けたその他のワクチンとの比較は求められなかった。同委の委員の一人で、感染症対策の専門家である福田敬二氏はこう語る。

続きを読む 2/2 国家安全維持法が口を塞ぐ

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