中国・新疆ウイグル自治区の人権侵害問題が、欧米企業の中国ビジネスへの影響を拡大させている。政府による制裁合戦にとどまらず、アパレル企業などを標的とする不買運動に発展した。米国はさらなる対中禁輸措置の法制化を進める。EUは中国との投資協定の批准を再考する方向だ。

新疆ウイグル自治区で綿を摘む農民(写真=ロイター/アフロ)

 中国では外国製品に対する不買運動が頻繁に起きる。このため、ナショナリストの怒りが高まった時、外国企業の経営者は既存のマニュアルに沿って対処する。まずは謝罪だ。そして沈黙を守る。恐らく中国文化に敬意を表しつつだ。そして怒りが鎮まるのを待つ。

 3月末になって、このマニュアルに目を通し、対応策を確認する企業が増えた。中国共産党に扇動された一部の消費者が、世界最大級の衣料品会社の製品を買わないと表明した。その対象に独アディダスや、スペインのアパレルブランドZARAの名が挙がる。

 不買運動をする人々の側からすれば、間違っているのはこれらの企業だ。中国の綿産業はウイグル人を強制労働させているとの証拠のない疑惑を真に受け、懸念を表明した。ウイグル人は中国北西部の新疆に住む少数民族で、その多くはイスラム教徒である。

 不買運動に直面する企業の経営者は事態が徐々に収まることを望んでいる。だが彼らも、中国で事業を展開する他の企業の経営陣も「今回はこれまでと違う」というばくとした不安を拭いきれずにいる。収益の重要な柱をなす中国事業が、西側諸国と中国を分かつ政治上の亀裂にはまる危険が高まっている。

 現在、最も差し迫ったトラブルに直面しているのは、スウェーデンのファストファッション大手、ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)だ。

H&Mは地図アプリから消えた

 ネット上での攻撃が始まってから1週間たった3月30日現在も、同社の製品は中国で最も人気の高いネット通販サイトから消えたままだ。スマートフォンの地図アプリでも店舗の位置が表示されない状態が続いている。幾つかのショッピングモールはH&Mとの賃貸契約を打ち切った。

 同社の中国での売上高は2020年に10億ドルに達し、全世界の5%を占める。この事業が危機にひんしている。

 すべての外国企業が、新疆ウイグル自治区における人権問題をめぐって、同社ほど被害を受けているわけではない。例えば米ナイキ。中国の有名人が同社とのコマーシャル契約を打ち切る動きが続くが、限定モデルのスニーカーのネット予約が3月26日に始まると、35万人前後が申し込んだ。

 政府が検閲を強化し、事態を鎮めようとする兆しが浮上するにつれ、SNS(交流サイト)上の抗議活動も徐々に沈静化し始めている。不買運動に巻き込まれた外国企業の株価も、当初の下落分をほぼ取り戻した。

 それでも、外国企業の経営者は依然として神経をとがらせている。現在進行中の問題の核心について、これまで試行錯誤して整えてきた対処マニュアルが機能しなくなっているからだ。核心とはつまり、中国による新疆ウイグル自治区での人権侵害と、それを罰すべきだという西側諸国の意志だ。この問題は裾野を広げ、世界第2位の経済大国との間で行われる他の商取引にまで影響を及ぼすかもしれない。

続きを読む 2/2 ウイグル自治区産の綿糸は中国全土に供給

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