AIに基づく自然言語処理プラットフォームが「企業の環境活動の大半は表面的なものにすぎない」と結論づけた。ESGを単に一時的な流行で終わらせないためには、より批判的な視点や監視の目を取り入れる必要がある。テクノロジーの力は企業に情報公開を促し、市民の声を届けることを可能にした。その力を活用しない手はない。

 企業経営者が「環境活動家」という言葉を耳にすると、真っ先に思い浮かべるのはグレタ・トゥンベリさんかもしれない。このご時世、彼女の名前を聞くだけで恐れおののく経営者も多いだろう。だが今、彼女に匹敵する、新たな存在に注目する必要がある。ロボットだ。

 「ClimateBert」という人工知能(AI)に基づく自然言語処理プラットフォームについて考えてみたい。2015年に前イングランド銀行総裁、マーク・カーニー氏の音頭により、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が設立された。これは、気候変動問題が経営に与える影響について情報開示を求める枠組みだ。

 TCFDの提言を支持する企業800社の開示情報を解析するために最近、スイスとドイツの研究者が協力して作り上げた自然言語処理モデルが、ClimateBertである。こう説明すると何やらマニアックな感じがするだろう。確かにその通りだが、ClimateBertが発するメッセージは決してマニアックではない。「TCFDの提言に対する支持表明の大半は表面的なものにすぎないことが、ClimateBertの出したゆるぎない結論である。企業はおおむね自分たちに都合の良い、さして重要ではない気候関連のリスク情報だけを開示している」と研究者たちは結論付けた。つまりClimateBertは企業の環境活動が欺瞞(ぎまん)であると暴き出したのである。

目立ち始めたESGの「反動」

 こうした結論に、カーニー氏のようなESG(環境・社会・統治)の提唱者はさぞかし困惑し、意気消沈していることだろう。昨年、ESGは大きな脚光を浴びた。米バンク・オブ・アメリカの試算によれば、投資可能資産の約4割がESGを看板に掲げたものだったという。

 だがここにきてESGの取り組みに対する反動の兆しが浮上しつつある。その一つが、仏食品大手、ダノンの会長兼最高経営責任者(CEO)のエマニュエル・ファベール氏が解任されたことだ。ファベール氏はESGの推進派として知られる。もう一つが、世界最大級の資産運用会社、米ブラックロックの元サステナブル投資部門責任者、タリク・ファンシー氏がESGを非難するコラムを執筆したことだ。

 「ウォール街は経済システムをグリーンウオッシュ(環境問題に取り組んでいるふりをする行為)している」とファンシー氏は断言する。そして「社会のためになることを追求することは企業利益にも好影響を及ぼす」「地球を守れ」などといった考えはきれいごとにすぎないと言う。ESGが浸透することで、政府はかえってすぐに取り組むべき政策課題や改革に気づきにくくなってしまっていると見る。

 しかしながら、こうした環境活動に対する反動は、別の視点から見ることもできるだろう。それは、ファンシー氏やClimateBertからの批判は、長い目で見ると「ESGの概念を毀損するものではなく、ESGを救う可能性がある」というものだ。ESGを単に一時的な流行に終わらせないようにするためには、ESGに批判的な視点を取り入れたり、高い目標や基準を設けたりすることが必要不可欠だ。

 21世紀以降、金融の世界ではIT(情報技術)の進展により、デリバティブ(金融派生商品)取引や証券化商品に関する監視体制がいち早く整備された。おかげで過去に生まれたどの金融テクノロジーと比べても、デリバティブは急速に発展・普及した経緯がある。

基準の統一は始まったばかり

 10年前はたった1社であっても、その企業が環境問題に対してどのような取り組みをしているのか、あるいは環境問題でどのようなリスクを受ける可能性があるのか、把握するのはほぼ不可能だった。入手可能なものであったとしても、会計情報に関わる脚注、もしくはシナリオの「外部要因」として扱われ、第三者による客観的な評価を受けた情報など、ほぼ皆無だった。

 現在も、データは依然として透明性を欠いている。TCFDなど、環境関連情報にまつわる報告の枠組みもいくつか存在するが、様々な基準が林立しているのが現状だ。国際会計基準(IFRS)財団は基準の統一化に乗り出したばかりで、統合が実現されるまでにはまだ時間がかかるだろう。

 しかしながら、すでに多数のデータが存在するという事実は大きな進歩だ。さらに素晴らしいのは、世界中の起業家精神にあふれたITマニアたちが、この情報を解析すべくプラットフォームを作ろうと切磋琢磨(せっさたくま)していることだ。開発の多くはオープンソースで行われている。そして、活動に関わる者たちの顔ぶれは米ゴールドマン・サックスのような大企業にはじまり独アラベスクなどのスタートアップ、学術研究者とさまざまだ。

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