米バイデン政権が今まで以上にインドとの関係を重視しようとしているのは、中国の脅威に対抗するためだ。クアッド首脳協議を呼びかけたり、米高官をインドに派遣したりして軍事分野以外でも協力関係を築こうとする。排外的な気質を持つインドの姿勢も変化しつつあるが、関係強化には解決しなければならない課題も存在する。

 2006年に当時のジョージ・W・ブッシュ米大統領がインドを訪問した際、上院外交委員長だったジョー・バイデン米大統領は、大統領の積極的な対インド外交政策を絶賛し、「私の夢は20年までに米印関係が世界で最も緊密な関係になっていることだ」と述べた。しかし、両国はそれ以来、同じ英語圏の国家であり、かつ「戦略的パートナーシップ」を掲げておきながら、よそよそしい関係であったように見える。

 ブッシュ氏は国際社会でインドが原子力を利用する権利を認めたほか、さまざまな二国間協力を締結したが、これは米印関係強化のためというよりも、インドが将来的に中国と拮抗できる「潜在力」を与えるためだった。

 またブッシュ氏は、まだ実現していない将来予測を足元の現実と混同し「分厚い中間層が生まれると言われるインドは米国の農家、起業家、中小企業にとって最高の市場だ」と強調した。だが実際には15年以上たった今でも、インドの中間層の数はさほど増えておらず、外国企業のインド進出に対するインド政府の姿勢もかたくななままだ。

議会の承認得るまでに1年

 インドの排外的な気質は、米印両国の関係進展を阻む深刻な原因だった。インドは度重なる政情不安を繰り返している上、歴史的にも海外勢に権益を奪われてきた経緯を持つ。そのため疑心が強く、他国の戦略や打算の巻き添えになることを警戒する。

 ブッシュ政権時代にインドの首相であったマンモハン・シン前首相は、米国からの地政学的な配慮に基づく「贈り物」だった米印原子力協力でさえ、議会の承認を得るのに1年かかった。承認を取り付けるために、内閣信任投票まで行わなければならなかった。ブッシュ氏が考案した軍事情報協力強化のための4つの「基本的」な防衛協定のうち、最後の1つが署名されたのは、構想から10年以上たった20年10月のことだ。

 こうした思惑の違いはあったものの中国に対する懸念が高まるにつれて、米印関係は着実に進展した。バラク・オバマ元大統領は、ナレンドラ・モディ首相がグジャラート州首相だった時に起こった宗教暴動を鎮圧しなかった問題を棚上げし、気候変動問題での協力を優先、軍事分野をはじめとする技術移転の障壁を撤廃した。また、ドナルド・トランプ前大統領は、貿易、移民、教育分野での協力関係は後退させたものの、防衛、軍事情報分野は強化した。とりわけ昨年に中印国境で国境警備隊同士が衝突した際の、米国が軍事情報と防寒装備を提供した協力ぶりは、米国と同盟関係にある国でもそうそう経験できるものではないだろう。

 それだけに、インド国民も米国側のアプローチに対して徐々に支持を示すようになってきている。依然米国の「同盟国」という位置付けに躊躇(ちゅうちょ)を見せながらも、米国からの恩恵を甘受するようになってきた。

 3月12日にオンラインで開催された米国、オーストラリア、インド、日本の4カ国による初の首脳協議はそのいい例だ。この協議は、今が米印関係の緊密化を図るチャンスであることと、バイデン政権がこの課題にいかに取り組むつもりなのかを浮き彫りにした。

3月12日にオンラインで開催されたクアッド首脳協議の様子(写真=代表撮影/AAP/アフロ)

 日米豪印は、英語で4を意味する「Quad(クアッド)」と呼ばれる。04年のスマトラ島沖地震による津波に対する災害救援協力を端に創設された枠組みで、その後ブッシュ政権のディック・チェイニー副大統領のもとで軍事的枠組みとして再定義された。

 しかし、中国との融和を重視するオーストラリアとインドが、中国に敵対的な集団であることを懸念し距離を置いたため、10年には一度解散することとなった。

 だがその後、貿易摩擦や国境をめぐって中国が執拗(しつよう)に敵対的行為を繰り返すにつれ、オーストラリアとインドのこうした懸念は後退。満を持して17年にトランプ政権がクアッドを復活させた。以来、閣僚会合、海軍合同軍事演習の実施を経て、12日に首脳協議がついに実現した。

 今回、バイデン氏のクアッドをめぐるさらなる構想が明らかになった。トランプ政権はクアッドをアジア版北大西洋条約機構(NATO)に発展させる構想をほのめかし、安全保障分野における協力を重視する姿勢を強調したが、バイデン氏は貿易、移民、公衆衛生、気候変動問題などに関し、米国の影響力を再び強めていくことを目標に掲げる。

 4カ国首脳協議では、アジア地域での新型コロナウイルスのワクチン生産と供給体制の強化という計画が採択された。これほど具体的な取り決めは、津波をめぐる救援協力以来だ。米国、日本、オーストラリアが資金を拠出し、世界のワクチンの60%を製造するインドでの生産体制拡大を支援する。

続きを読む 2/2 軍事分野以外でも協力狙う

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