バイデン政権も米中央銀行も、公式統計が示す失業率を信用していないようだ。その値が低下し続けているにもかかわらず、財政措置を拡大し、金融緩和を継続する意向だ。背景にあるのは労働参加率の低下。コロナ禍が長引く中、職を探す意欲を失う人が増えている。

<span class="fontBold">失業手当を申請すべく施設を訪れた失業者たち</span>(写真=ロイター/アフロ)
失業手当を申請すべく施設を訪れた失業者たち(写真=ロイター/アフロ)

 32歳のブリアナ・キプニスさんはフィットネス事業を営むスタートアップ企業に勤めていた。昨年6月にレイオフされた時には、1カ月ほど休んでから再就職するのも悪くないと考えた。彼女は米ニューヨーク市内に借りていたアパートを引き払い、隣接するニュージャージー州の両親宅に移った。

 だが、1カ月のはずだった休職期間は9カ月に延びた。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な大流行)はとどまるところを知らず、キプニスさんは次第に再就職の希望を失った。そして彼女は世界一の経済大国・米国の労働市場からこぼれ落ちた。

 このパンデミックの下でキプニスさんのように職探しをあきらめた米国民は数百万人に上る。求職の状態にないため、こうした人たちの数は公式失業率に反映されない。2020年4月に14.8%を記録した失業率は今年1月には6.3%に下がっている。

 「とても落胆しています」とキプニスさんは言う。「モチベーションと前向きな気持ちを持ち続けようとしても、今はそれがすごく難しい」

 キプニスさんをはじめとする多くの人がこのように職探しに希望を失っている。雇用市場の強さを示す指標として、米国の政策担当者たちが失業率に不信感を抱く理由の一つはここにある。不信感を抱いているのは、中央銀行である米連邦準備理事会(FRB)もバイデン政権も同様だ。

 米失業率が急降下する度合いは今のところ、民間部門のエコノミストの予想も、FRB担当者の予想も超えている。2月の失業率は3月5日*1に発表される予定だ。

*1=米労働省はこの日、失業率を6.2%と発表した

真の失業率は10%に迫る

 労働市場の動向は実際にはずっと勢いを欠くだろう。だが公表される数値はそれを表していない。このため公式の失業率統計は今日、米国の回復状況を示す指標としては不十分かつ信頼できないものと考えられるようになった。

 ジェローム・パウエルFRB議長は2月に行った講演で「パンデミック下に発表された失業率統計は雇用情勢が悪化している程度を著しく過小評価している」と語り、より現実的な数字は10%に迫るだろうと述べた。

 失業率が低下した理由の一つに、パンデミック下で正確な調査回答が得られず、誤分類が生じたことが挙げられる。だが最も重要なのは、労働参加人口が大幅に減少し統計がゆがめられている点だ。

続きを読む 2/2 失職した人々は市場に戻るか

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