世界最大の半導体受託製造会社である台湾のTSMCが、生産体制増強に向けて設備投資を強化している。半導体需要が急増している上、米企業が中国に頼らない半導体供給体制を確立しようとTSMCに注文が殺到した。米国は中国への半導体供給を停止するよう圧力をかけており、TSMCは米中衝突の中で選択を迫られている。

<span class="fontBold">中国・南京で2020年8月に開かれた半導体関連の展示会におけるTSMCのブース</span>(写真=VCG/Getty Images)
中国・南京で2020年8月に開かれた半導体関連の展示会におけるTSMCのブース(写真=VCG/Getty Images)

 近年の建造物を、建築コストの高い順に並べるとしたら。何が上位に来るだろうか。現在、最も高価な建造物はサウジアラビアのメッカにある大モスク周辺に建てられた超高層ビル群であるといわれている。だが建設中のフランスの国際熱核融合実験炉(ITER、イーター)が完成すれば、抜かされるかもしれない。

 そして3番目は、おそらく半導体受託製造会社の台湾積体電路製造(TSMC)が約200億ドル(約2兆1200億円)を投じて台湾に建設する大規模半導体製造工場になるだろう。来年操業が始まれば、サッカーのピッチ22個分の広さに相当するクリーンルームで、超微細のチップが製造される。回路線幅は従来の記録を完全に塗り替えるもので、わずか3ナノ(ナノは10億分の1)メートル。これは3秒の間に伸びる爪の長さにあたる。

 この巨額の設備投資は、コンピューターチップに対する需要の高さ、台湾のチップ製造における優位性、そして製造技術の高度化を浮き彫りにしている。TSMCのチップは、米アップルの最新のスマートフォン「iPhone」に始まり医療機器、最新鋭ステルス戦闘機F35に至るまで、あらゆるものに搭載されており、世界の半導体売上高の約55%を占めている。

 半導体は地政学的な観点からも押さえておかねばならないものになりつつある。米国は中国のテクノロジー業界への締め付けの一環として、TSMCに対し、これまで同社の最大顧客の1つだった中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)への半導体供給を停止するよう圧力をかけた。

国外依存を減らそうとする中国

<span class="fontBold">台湾・新竹にあるTSMCの本社</span>(写真=Bloomberg/Getty Images)
台湾・新竹にあるTSMCの本社(写真=Bloomberg/Getty Images)

 石油よりも半導体の輸入に多くを費やしている中国は、半導体の国外依存度を減らすために国内産業の育成を進めている。米国、日本、欧州連合(EU)も同じ「もろさ」を自覚しており、自国の自動車メーカーやコンピューターゲーム会社が供給不足を訴える中、国内の半導体産業のテコ入れを強化している。半導体はワクチンと並んで、いまや世界各国にとってなくてはならないものになっている。

 かつての軍事力が後装式ライフル銃、軍艦、原子爆弾から成るのであれば、21世紀は高度な半導体をいかにうまく使うかが重要になってくるといえよう。

 中国本土が台湾に軍事侵攻するかもしれない理由の1つとして、世界の半導体産業の中核であるTSMCの存在が挙げられる。だが実行に移すには、軍事的にも政治的にも熟慮を重ねることを、北京の中国指導部は求められるだろう。

 いずれにせよ、TSMCはライバル企業をしのぐ規模の投資を行い、利益をきちんと上げている極めて優良な企業だ。半導体需要の拡大に迅速に対応するため、同社は今年、250億ドル(約2兆6500億円)から280億ドル(約2兆9680億円)程度、設備投資を増やすと発表したばかりだ。

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