自分の意に沿わない行動をした国に対して制裁を科す中国の「高圧外交」に悩むアジア太平洋諸国は多い。多くの製品輸出がストップしているオーストラリアでは妥協する意思がなく、貿易紛争は長丁場になりそうだ。中国の脅しに対抗するには、調達先を分散させることや、他国と共同戦線を張るなど、知恵と工夫が求められる。

<span class="fontBold">豪州産ロブスターは中国の高級飲食店での需要が高い</span>(写真=Bloomberg/Getty Images)
豪州産ロブスターは中国の高級飲食店での需要が高い(写真=Bloomberg/Getty Images)

 昨年11月、中国政府が突如、豪州産ロブスターの輸入禁止に踏み切るまで、中国はオーストラリアにとって最も大きなロブスターの輸出先だった。現在、中国への甲殻類の出荷量は10分の1に激減した。だが、ロブスターはワインや大麦、石炭、砂糖、木材、銅鉱石など、中国の予期せぬ制裁発動によって輸出量が激減した豪州産製品の一つにすぎない。

 中国が自分たちに逆らった国に報復するのは、しばしば見られることだ。現在の標的はスウェーデンだろう。スウェーデンは、中国生まれでスウェーデン国籍を持つ桂民海氏を連行し、投獄したと中国を批判した。桂民海氏は中国共産党指導部に関するゴシップ本の発行者である。

 カナダも同様の状況に置かれている。米国の要請を受け、中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)の副会長で創業者の娘、孟晩舟氏を対イラン経済制裁に違反した容疑で逮捕して以降、カナダと中国の関係は冷え込んだ。

 ノルウェーは、チベットの精神的指導者ダライ・ラマ14世がノーベル平和賞を受賞してから、非難を浴びせられている。ノルウェーの委員(ノルウェー・ノーベル委員会)がノーベル平和賞を授与したからだ。

 しかし、中国とビジネスで大きなつながりを持つがゆえに、制裁の影響を大きく受けるのはアジア太平洋諸国だろう。2017年に韓国は中国の不興を買った。米国に地上配備型ミサイル迎撃システム「終末高高度防衛(THAAD)」の配備を許したからだ。これらは北朝鮮の核に対する防衛を目的に配備するものだが、中国はレーダーが中国国内の監視に利用されると反対していた。

不買運動でGDPが0.5%減

 突如、中国人の韓国への旅行がストップされた。K-POPは中国公演を禁止され、中国全土に百貨店を展開しているロッテは消費者の不買運動に直面した。不買運動は韓国の17年の国内総生産(GDP)を0.5%押し下げたとされる。

 オーストラリアも中国から様々な非難を浴びせられている。11月に中国大使館は、新疆ウイグル自治区や香港における中国の人権問題を批判しているなど、豪政府に対する14項目の抗議内容を列挙した文書を豪メディアに手渡した。その中には、中国企業数社のオーストラリアにおける投資計画が却下されたことや、豪メディアや調査機関が反中国的な姿勢をとっている、といった批判も含まれていた。

 時代は何と大きく変わったことだろうか。中国とオーストラリアの自由貿易協定(FTA)が発効したのは、わずか5年前のことだ。習近平(シー・ジンピン)中国国家主席はかつて、オーストラリアの全州を訪問したと胸を張り、海産物貿易の拡大をたたえた。

 だがそれ以降、問題は増えるばかりだ。オーストラリアは中国のファーウェイ製の通信機器を、国内の次世代通信規格「5G」ネットワークから排除したことで、中国政府の怒りを買った。ファーウェイは中国政府と緊密な関係があり、同国のセキュリティーサービスにおいても重要な役割を果たす。

 中国はまた、オーストラリアが18年に外国勢力による内政干渉を防止する法律(改正国家安全保障法)を成立させたことについても腹を立てている。同法案は、17年に起こった中国人実業家がオーストラリアの上院議員に献金するスキャンダルを受け、提出された。

 20年4月には、スコット・モリソン豪首相が新型コロナウイルスの発生源を巡り、第三者機関による調査を求めたことで、中国側の怒りがついに爆発した。新型コロナの発生源に関し、中国は神経質になっている。

 豪ローウィ国際政策研究所のリチャード・マクレガー氏によれば、モリソン首相はへまをしたという。調査を要求すること自体は正しかったが、多数の国で足並みをそろえることをせず、単独行動したことが間違いだったという。中国の感情的な対応から判断するに、オーストラリアは中国の機嫌を大きく損ねたといえよう。

 中国の歴代王朝は、中国が最も重要な国であるということを諸外国に認識させようとしてきた。「中華民族の偉大なる復興」を目指す今、中国は再びかつてのような扱いを受けることを望んでいる。中国に逆らった国に対する態度は、上下関係を重んずる朱子学的な思想が影響している。中国の大きさや影響力に物を言わせ、従わせようとするやり方でもある。

続きを読む 2/2 貿易紛争は長丁場になる
日経ビジネス2021年3月8日号 96~97ページより目次

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