中国で、スマホのアプリで扱えるデジタル通貨「デジタル人民元」の運用試験が行われた。デジタル通貨は各国で検討が進むが、人民元の国際化を目指す中国が一歩抜きんでた形だ。しかし中国政府の真の狙いは、すべての決済情報を把握して国内統制を強化することにありそうだ。

北京で実施された、E人民元の試験導入の様子。コーヒーショップでの買い物に使用された(写真=VCG/Getty Images)

 2月12日に丑年の新年を迎えた今年の中国の春節(旧正月)は、新型コロナウイルスの影響で、いくぶん控えめなお祝いとなった。故郷に帰省する人の数は例年より大幅に減り、親族が集まる楽しみが奪われた。

 だが、憂鬱なことばかりではない。中国のいくつかの都市では、中国当局が新年の「紅包(祝儀)」として、数千万人民元を大盤振る舞いしたのだ。北京と蘇州だけでも、抽選に当たった20万人に、1人200元(約3260円)の紅包がスマートフォンにダウンロードできる形で配布された。

 この慈善事業の裏には、恐るべき計画が潜んでいる。当局は、伝統的な紅包を「デジタル人民元」の形で配布することを通じて、極めて重要な新技術の試験運用を実施しようとしている。そして、デジタル人民元にまつわるこの技術は、各国の法定通貨のデジタル化を主導する国際規格となる可能性を秘めているといってもよい。

 デジタル人民元の正式運用がいつ始まるのかについては、まだ発表されていない。中国は、デジタル通貨を導入する最初の大国となることをもくろんでいる。2022年に中国で開催予定の冬季五輪で、決済技術において世界最先端を走る姿を世界にお披露目しようとしているのだ。もっとも、カンボジアは既に20年10月に、デジタル通貨「バコン」の正式運用を開始しているが。

 米ウォール街のある大手銀行でアジア事業を統括する人物は、匿名を条件にこう答えた。「中国の政策担当者はデジタル通貨について飛び抜けて進んだ考えを持つ。世界のほかの地域では思いつかないことを考えているのだ」と語る。そして「デジタル人民元により、あらゆる取引が中国人民銀行(中央銀行)の管理下に置かれるだろう」と、続けた。

 人民元のデジタル化計画は、中国政府のさらなる野望と密接に結びついている。中国政府は、人民元の国際化を進め、米ドルの優位性を突き崩すためにこの技術が役立つだろうと期待を寄せているのだ。もちろん、当面の目的は、中国国内の経済活動における利用であると銀行家たちはみるが、中国の一部のアナリストたちは、将来は貿易決済にも使われるだろうと語る。

 しかし、中国がデジタル通貨を発行する背景には、別の目的がある。それは、世界の多くの地域で仮想通貨問題を巡り交わされている議論とは真逆をいくものだ。米国では暗号通貨はリバタリアニズム(自由至上主義)の文脈で語られるが、中国のデジタル通貨計画は、中国共産党による社会経済支配を維持する動きと結びつく。この技術は、監視国家の強化のために設計された側面を持つのだ。

 中国のデジタル人民元は、「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」であり、ある意味、ビットコインのような暗号通貨の対極にある。暗号通貨は分散型であることが多く、政府が発行、運用するものではない。これに対してデジタル人民元は、中国政府によって設計された包括的制度の一部となる。中央銀行が発行、監督し、法定通貨としての裏付けも国家が保証する。

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