中国のネット上で資本主義批判が高まっている。若者たちは毛沢東を称賛し、ジャック・マー氏を批判する。背景には、格差の拡大とSNSの普及がある。ただし中国共産党は、民間大手企業を重用する姿勢を変えはしないだろう。

資本主義批判の矢面に立たされるジャック・マー氏(写真=アフロ)

 中国で盛り上がるショート動画の世界で何より人気を集めるのは、たいていばかげたギャグか、動物か、その両方を登場させるクリップだ。しかし最近、人気チャートの上位に別のジャンルが登場した。資本主義批判である。

 ゾン・シークァと名乗るユーザーが2020年12月、ある動画を中国版TikTok「抖音(ドウイン)」に投稿した。ゾン氏はその中で、中国電子商取引の大立者、馬雲(ジャック・マー)氏を「利己的な資本家」とこき下ろした。

 都市の風景を撮影しただけの素人くさい動画に「このお偉いさんたちは小商いの店を踏みつけにしている」とナレーションが入る。「以前は人のためになることをして、暮らしを便利にしていたのに。今では金融トラブルの元になり、社会を害している」

 中国政府も馬氏の事業を標的にする。20年11月3日、同氏が創業したフィンテック企業アント・グループ(螞蟻集団)の新規上場を延期するよう強いた。世界最大の新規上場となるはずだったが、同社の事業モデルを根本からひっくり返す新たな規則が制定され、実現に至らなかった。

 この出来事をきっかけに、馬氏はネット上にあふれる資本主義への怒りのはけ口となった(以後3カ月近くにわたり馬氏は公の場所から姿を消した。1月20日になって、地方の教師たちへのオンライン講演で再び姿を見せた)。

ファーウェイ創業者の娘も標的

 このところ中国のネット市民の怒りは、ほかの民間企業とその経営者にも向き始めている。中国政治の専門家であるジュード・ブランシェット氏は、非国有大企業に対する反感はかなり以前から世論の端々に明らかに表れていたと指摘する。同氏は著書『チャイナズ・ニュー・レッド・ガーズ(中国の新たな紅衛兵)』において、1990年代以降に中国国民の間で毛沢東を見直す動きが高まっている様子を描いた。

 中国政府は通常は、馬氏などが経営する企業を擁護し、中国が資本主義に屈しているとするネオ毛沢東主義からの非難を鈍らせようとする。しかし時に、毛沢東主義者たちが憤りを表明するのを許すこともある。現在はそうした状況にあるようだ。

 中国規制当局はテック大手を標的とする新たな反トラスト規則を整え、その力をそぐ狙いだ。ブランシェット氏は「当局は大衆が抱く不満をこのキャンペーンの追い風として利用しているように見える」と語る(米ブルームバーグが2月3日に報じたところによると、アント・グループは再編計画をめぐって規制当局と合意したもようだ)。

 ネット市民は最近、「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」も標的にしている。拼多多は、アント・グループを傘下に持つアリババ集団と競合するネット通販大手だ。拼多多で働く23歳の女性従業員が残業の後、帰宅途上で倒れ、その後病院で亡くなったという出来事が1月4日に報じられたのだ。

続きを読む 2/3 「資本家は俺たちを搾取するだけだ」

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