中国でフードデリバリーサービスが急拡大している。その配達人たちが働く環境は悲惨だ。厳しい配達期限を課され、守れなければ罰金を支払わなければならない。これが交通事故を招く。それでも彼らは正社員でなく、アリババなど大手は雇用関係を否定する。ギグワーカーの悲劇が中国にもある。

<span class="fontBold">中国のフードデリバリー市場は、米国の5倍の規模に成長したという</span>(写真=ロイター/アフロ)
中国のフードデリバリー市場は、米国の5倍の規模に成長したという(写真=ロイター/アフロ)

 北京の、いてつくような火曜の夜のこと。道路を塞いでいるのがうつぶせに倒れた男性だということに、私はしばらく気づかなかった。その頭の周りにはどす黒い血だまりが広がっていた。

 私はスクーターにまたがり、前にいる配達員が動き出すのを待った。ふと、配達員の向こうに男性が倒れているのを改めて見て、それが衝突事故の光景であることを悟った。

 「医者は呼びましたか」。私は配達員に尋ねた。彼はスピード宅配サービス「閃送(Shansong Express)」の鮮やかな青の制服を身に着けている。「いえ、呼んでないです」。配達員は、ぶつかった相手は飲酒運転をしていたという言い訳をもごもごとつぶやいた。

 酔っていようがいまいが、男性は今、意識を失って道を塞いでいる。配達員が言葉を濁しているのは、自分が治療代を支払わなければならなくなるのを恐れているからかもしれない。そんな考えが私の頭をよぎった。私は5年間の中国生活で初めて救急車を呼んだ。

 その間に配達員は、そばを行く通行人に「6号棟はどこか」と尋ね、速足で立ち去ってしまった。とどのつまり、彼は期限までに配達を終えることを重視していたのだ。間に合わなければ、閃送から罰金を科されるリスクを抱えていた。

交通安全が最大の課題

 私が救急車を待っていると、倒れていた男性は体を動かし始め、やがて立ち上がった。そして救急車が到着した。私は家に向かってゆっくりとスクーターを走らせながら、「今回は運が良かったな」と考えていた。配達員たちが遭遇する事故の多くは、これよりずっとひどいものだからだ。

 上海市の統計によると2019年上半期において、宅配やフードデリバリーの配達員は週に平均13件の交通事故に巻き込まれている。負傷件数も13件だ。この6カ月間に5人が死亡するに至った。

 中国の有力紙「新京報」が1000人以上の配達員を対象に実施したアンケートによると、回答者の7割が交通安全を「仕事上の最大課題」とした。なるほど、うなずける話だ。

続きを読む 2/2 配達員は使い捨て可能な人的資源か

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