人口1000万人に満たないイスラエルが、大量のワクチンを獲得し、すでに人口の40%に1回目の接種を済ませた。政府が迅速に動いた背景に、3月の総選挙がある。ネタニヤフ首相は再選を目指し、ワクチン政策に力を入れる。ただし感染を封じ込めるには至っていない。今後は集団免疫の獲得との関連が注目される。

人口およそ900万人の40%が少なくとも1回目のワクチン接種を終えている(写真=AFP/アフロ)

 イスラエルは昨年末、新型コロナウイルス感染が世界的に大流行するなか、大国との激烈な競争を繰り広げていた。世界の製薬メーカーからワクチンの供給を受けるためだ。イスラエルは今日、世界最速ペースでワクチン接種を進める国の一つとなった。国内に到着済みの分とこれから到着する分を合わせれば、すでに国内で使用する分を上回る量のワクチンを確保している。

 製薬メーカーは何億人もの潜在顧客がいる市場で大きなシェアを握ろうと狙っている。そんな各社を、人口わずか900万人にすぎない国がいかにして説得したのだろうか。

 答えは、米製薬大手ファイザーのアルバート・ブーラCEO(最高経営責任者)とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、およびエデルスタイン保健相が行った17回の会談にある。

 イスラエルの2人の政治家は、ワクチンの接種体制を世界最速水準で立ち上げると約束。十分な供給が途切れることなく続く限り、ワクチンがパンデミック(世界的大流行)に及ぼす影響に関するデータを共有することも確約した。ファイザーはこれに合意し、2020年12月半ばまでに供給を開始した。

 エデルスタイン保健相は本紙(英フィナンシャル・タイムズ)のインタビューに応じて次のように答えた。

 「ファイザーは、イスラエルとの合意の成果を誇ることができる。これは、ファイザーにとって利益だ。成果を世界に知らしめることもできる。こうしたメリットがなければ、どんな製薬メーカーも我が国のような小国に見向きもしないだろう。彼らが本来求めるのはわが国より100倍も規模の大きい市場なのだから」

 ワクチンの供給が進むにつれ、イスラエルはワクチンを製造する主要3社すべてから供給を受け、3月までに必要分を超える量のワクチンを手にする見込みだ。

パレスチナとの関係をにらむ

 合意に基づき、ファイザーと独製薬ベンチャーのビオンテックが開発・製造するワクチンを満載した飛行機が、ほぼ毎週の日曜日、テルアビブに到着する。テレビカメラがこの光景を映し出す。他の国も供給を本格化すべく急いでいるが、一部の国は遅延を来している。

 そんな中で、イスラエルでは60歳以上の人々を中心に260万人超の国民が1回目の接種を終えた。2回目の接種を済ませた人も110万人を上回る。

 ネタニヤフ首相は1月24日、「我々の接種は米国より10倍速い」とぶち上げた。同首相によれば、1月最終週にさらに100万回分のワクチンが到着するという。「我々が成し遂げたことは、他国の追随を許さない」(同首相)

空港を訪れ、ワクチンの到着をアピールするネタニヤフ首相(写真=代表撮影/ロイター/アフロ)

 ファイザーとの合意と、極めて迅速かつ効率的なワクチン接種体制の確立は、ネタニヤフ首相の政治力を強化することになる。イスラエルは3月末に総選挙を控えており、同首相は再選を目指している。

 同首相は「生活を取り戻す」を標語に国を挙げて取り組むワクチン接種作戦の成功を自賛するのに余念がない。ある時はワクチンセンターを訪問し、ある時はワクチンを満載した飛行機を空港に出迎える。自身がワクチンを接種した注射器をケースに入れて執務室に飾ってもいる。

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