イランは、イスラム教シーア派の盟主だ。しかし、他の宗教や、イスラム教の他の宗派が拡大しているという。「強圧こそが宗教国家を守る」という聖職者の考えが、シーア派離れを促している。

火を囲んで行うゾロアスター式の儀式が人気だ(写真=AP/アフロ)

 マンスール神父に言わせると、イランにおけるキリスト教は、迫害に苦しんだ原始キリスト教会が経験したことをとことん味わっているという。

 マンスール神父は説教をすべく、全国のキリスト教徒の家を訪ねる。その際に暗号を用いるのだ。イエスのことは「ジャムシード」*1と呼ぶ。聖歌は無言で指揮する。「声を出して賛美することができないので、発声はせず、唇を動かすだけだ」と同神父は言う。

*1=古代ペルシャ神話に登場する王の名前

 活動に伴うリスクは大きい。布教活動は禁じられており、これまでに数十人の宣教師が投獄された。だが精神的に得られる報いもまた大きい。現地の牧師たちは、秘密裏に活動する数百の教会に何十万もの礼拝者が通うと報告している。福音派は、イランではどの国よりも急速にキリスト教が広まっていると主張する。

 イランのイスラム教シーア派宗教指導者(アヤトラ)と、彼らが支配する人々とを分かつ精神的な溝は拡大の一途をたどっている。神権政治が備える厳格さやシーア派を至高とする教義が多くの人を遠ざけているのだ。このため宗教から遠ざかったり、シーア派に代わる宗教を試したりするイラン人が増えているようだ。

 キリスト教徒とゾロアスター教徒、バハーイー教徒*2は一様に、人々が寄せる関心が高まっていると報告している。イスラム教の他宗派の指導者たちは人気が盛り返していると話す。亡命中のシーア派聖職者、ヤセル・ミルダマディ氏は「忠誠心の変化が起きている」と言う。「イラン人は別の宗教に目を向けつつある。当局が規定する教義ではもはや満たされないからだ」

*2=イランで19世紀半ばに発祥した一神教

宗教指導者が恐れる多様化

 形式的には、アヤトラたちはイスラム教より起源が古いものであれば、他の一神教も認めている。

 イランの憲法は議会の290議席のうち5議席を、イスラム教徒ではない「啓典の民」(キリスト教徒、ユダヤ教徒、ゾロアスター教徒)に割り当てている*3。これらの信者向けに独自の学校(校長はイスラム教徒が務める)と礼拝所がある。イランにはイスラム世界で最大のユダヤコミュニティーが存在する。

 だが聖職者たちは非シーア派教徒を隔離し、修道院に閉じ込め、自分たちに従属させようとする。宗教の多様化が進み、シーア派国家としてのイランの神聖性が濁ることを恐れているのだ。1979年のイラン革命以来、シーア派教徒でない閣僚が就任したことはない。聖職者たちは時に少数派を異端者やスパイとして公然と非難する。イスラム教以外の宗教に改宗することは死刑に値する*3

*3=原文のまま訳した
続きを読む 2/2 「イスラム教に楽しみはない」

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