テスラの時価総額が1月、ついに8000億ドルを超えた。だが、その展望は分かれる。強気の見方は「生産地獄は解消した」「その技術力は非常に高い」というもの。他方、弱気の見方として「競合が猛追している」「生産目標を達成できなかった」「自動運転は未熟」などが上がる。

マスク氏は未来を先取りしているのか、手を広げすぎたのか(写真=代表撮影/ロイター/アフロ)

 まず強気の見方を紹介しよう。米テスラの株価は一本調子に上昇を続ける。同社の株価は2020年、700%超というとんでもない上昇を記録した。であるにもかかわらず、燃料タンクにまだ多くを残している(テスラが過去のものにしようとしている「燃料タンク」という表現を借りるならば)。

 テスラが自動車業界に及ぼした影響は、いくら評価してもしすぎることはない。テスラが置き去りにしようとしている他の自動車メーカーを評価する基準で同社を判断するのは間違いだ。テスラはテクノロジー企業であり、自動車業界の破壊者にとどまらない。個人レベルの輸送、エネルギー(バッテリー技術と太陽光発電を通じて)、ロボット工学、ヘルスケアなど様々な産業に破壊的影響を与えている。

 現在の株価は、将来の交通システムにおいて支配的な地位を確立する可能性だけを評価したものだ。20年1~9月の営業利益率は7%に近く、大手競合のいずれをも上回る。今後、さらに上昇する趨勢にある。

 市場は爆発的な伸びを記録している。電気自動車は今日、自動車販売台数全体の約3%を占める。テスラはその5分の1のシェアを握る。排ガス規制の強化と、気候変動を懸念する人々の拡大を背景に、30年までには、全世界で販売される自動車の3分の1が電気自動車となる。その10年後には2分の1を超えるだろう。

技術力で他社を圧倒

 イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は30年までに2000万台の電気自動車を生産すると期待している。この目標は実現できないかもしれないが、それでも電気自動車市場の25~30%を支配する可能性はある。

 テスラを苦しめた「生産地獄」は過去のものとなった。20年に生産台数を50万台に乗せるという、新型コロナ禍が起こる前に設定した目標をほぼ達成。中国の新工場も急ピッチで建設した。同工場は1月18日、小型多目的スポーツ車(SUV)「モデルY」を初めて出荷した。

 ドイツの工場も間もなく稼働を開始する。米テキサス州に建設する新たな巨大バッテリー工場「ギガファクトリー」も同様だ。これらの新工場建設や、新型コロナ禍の最中に120億ドル(約1兆2500億円)の資金をやすやすと調達した事実は、テスラが生産能力を意のままに引き上げられることを示している。

 テスラは、イノベーションを迅速に生み出す能力に定評がある。それゆえ、既存の自動車メーカーも、テスラの追い落としを図る新参メーカーも、テスラが持つ技術面での圧倒的なリードを埋めるのは困難だろう。既存メーカーは内燃機関というレガシーから自由になろうともがいている。

 米アップルなど他のIT(情報技術)の巨人と同様、テスラの製品が電気自動車というカテゴリーそのものを定義するだろう。マスク氏は「自動車」を「つながるエレクトロニクス製品」に作り替えた。

 テスラ車の多くがすでに自動運転機能を備えている。規制当局の認可を待っている状況だ。世界がモビリティーサービスに向かう中、テスラは運転手の要らない「ロボタクシー」の商用化でも先頭に立つ。自動車メーカーは、自動車を開発・販売する企業から、移動・輸送というサービスそのものを提供する企業に変わろうとしている。

 テスラが擁する最大の資産はマスク氏、その人だ。マスク氏は明確なビジョンを掲げ、火星へのロケット旅行や神経科学、グリッドスケール・バッテリー(電力網対応蓄電池)をはじめとする革新的な技術の開発を指揮する。テスラに投資することは、「将来」を「ドル箱」に換えるマスク氏の天才にかけることを意味する。

続きを読む 2/2 欧州では他社の背中を見る

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り1378文字 / 全文3304文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

オリジナル動画が見放題、ウェビナー参加し放題

日経ビジネス最新号、9年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「世界鳥瞰」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。