中国では強制力を持つ厳格な感染拡大防止策が講じられており、効果を上げている。中国国民がこうした施策を受け入れるのは、個人の自由を気にかけないからではない。共産党の政治的プロパガンダとともに、経済的、文化的、歴史的な背景も関係している。

<span class="fontBold">石家荘市では、移動式のPCR検査室を活用し、大規模な検査を実施した</span>(写真=Top Photo/アフロ)
石家荘市では、移動式のPCR検査室を活用し、大規模な検査を実施した(写真=Top Photo/アフロ)

 1月10日、北京の西城区で働く会社員の周氏が、新型コロナウイルス感染症と診断された。中国の役人は、首都北京にはこのウイルスを侵入させてはならないとの厳命を受けている。

 役人たちにとって、この報告は自身のキャリアを脅かす極めて恐ろしい知らせだった。そこで彼らは、国によっては戦時下でしか許されない、強権的な対応を取ることにした。

 中国では検査で陽性が判明した人の過去10日間の行動履歴がすべて公表される。周氏も多分に漏れず、食事をした小さな麺料理店から利用した鉄道経路に至るまで、すべての行動が公となった。ネット上には、周氏がこの間に2度、石家荘市を訪れていたことに対する怒りの声があふれた。石家荘市は北京に隣接する河北省にある人口1100万人の地方都市で、今年に入って400人以上の感染者が確認されている。「家でじっとしているべきだった」「少なくとも地下鉄を使うべきでなかった」などといった非難が殺到した。

 周氏の濃厚接触者は100人近くに上る。近隣の職場で働く数千人が即座にPCR検査の対象となった。自宅のある北京のベッドタウンである河北省廊坊市固安県でも、当局が近隣住民を検査し隔離した。固安県は北京から河北省に入ってすぐのところにある。

 1月12日には、さらに徹底した措置が講じられた。固安県に通じる道路は封鎖され、50万人の住民には1週間の自宅隔離が命じられた。河北省では、省都の石家荘市をはじめいくつかの都市で感染拡大を抑えるためにロックダウンが実施された。全部で約2200万人が自宅から出られなくなった。

春節の帰省を制限

 北京では、感染の第2波に対する懸念が高まっていることから規制がますます強化されている。その内容は住民が発熱を隠せないよう一部の薬局で市販の鎮痛剤の販売が停止されるという、腹立たしい程度のものから、耐え難い苦痛を伴うものまで多岐にわたる。

 例えば公務員は、今年は2月12日に予定されている、中国の旧正月(春節)を事実上祝うことができなくなった。地方への帰省が許されなくなるからだ。

 また住民が市内を移動する際には、買い物であろうとタクシーの利用であろうと、ほぼすべての場所でスマホに表示される「健康コード」と呼ばれるQRコードをスキャンし自らの行動を登録しなければならなくなった。行動を逐一記録する必要があるため、北京に通じる高速道路の検問所では通勤の車が長蛇の列を成す。人々は罵り声を上げながら何時間も行列に並び続ける。SNS上には労働者たちが何年かぶりの厳しい寒さで凍った川をスケート靴で滑って通勤する「アイデア」が披露された。するとスケートで北京市内に入ることを禁止する新規則が作られた。

 こうした規制は煩わしく、実際には陰険に感じるものもあるが、効果は出ている。北京では、本記事執筆時点までの1カ月間で数百万人にPCR検査が行われ、陽性判明者は44人だった。

 これに対してロンドンでは、1日の新規感染者が8500人を超えている。中国の人々は海外の混乱した状況がとても信じられないと言い、欧米にはマスクの着用を拒否する人がいるというが本当だろうかと首をかしげる。中国国内では、政府による厳しい感染対策への批判は、私的な会話の中でもほとんど聞かれない。規制の施行に厳格さが足りないという不満の声の方が主流だ。

続きを読む 2/2 歴史に根付く「強権的対応」

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