英石油大手のBPが今後、深刻な矛盾に苦しむかもしれない。同社は、2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにする目標を掲げる。その一方で、油田開発の手を緩めないロスネフチの大株主でもある。資本による統制は効いていない。

BPのルーニーCEO(左)とロスネフチのセチン社長(右)。その思惑は明らかに異なる(写真=左:AP/アフロ、右:Mikhail Svetlov/Getty Images)

 英石油大手BPのバーナード・ルーニー氏はCEO(最高経営責任者)の座を賭けて産油量の削減を進めている。一方、ロシアの国営石油会社ロスネフチのイーゴリ・セチン社長が目指すのは正反対の方向だ。同社は北極圏に10兆ルーブル(約14兆円)規模の巨大な新プロジェクトを展開している。

 BPはロスネフチ株式の20%近くを保有する。強引なセチン氏はこれにかまうことなく石油に対する信念を貫くようだ。他方、ルーニー氏は恐らくこの事実を放置するわけにはいかない。

 セチン氏は昨年11月、北極圏の資源開発計画「ボストーク・オイル」プロジェクトが進行中であることを公式に発表した。古くからの友人であるロシアのウラジーミル・プーチン大統領との対談でのことだ。

 これは様々な意味で、ルーニー氏が目指すものとは対照的なアプローチだ。ルーニー氏は2050年までにBPの二酸化炭素排出量を実質ゼロにする方針を打ち出している。また、化石燃料から上がる収入への依存度を軽減するという。

クリーン投資を化石燃料で賄う

 ボストーク・オイル・プロジェクトの規模は巨大だ。採掘する原油の量は推定60億トン。ロスネフチは油田と設備の建設・運営に必要な人員40万人を居住させるため、15の工業都市を新たに建設する。現在、氷の海も航行できるタンカーの船団を建造しているところだ。

 ロスネフチは、このプロジェクトがフル稼働に至ったあかつきには年間1億トンの原油を輸出したいと考えている。欧州に拠点を置く資源商社トラフィグラはこのプロジェクトの権益の10%を獲得した。同プロジェクトは中国とインドからの投資も募っている。

 BPのCEOに20年2月に就任したルーニー氏は6月、ロスネフチの取締役会に名を連ねた。BPはロスネフチ株式の19.75%を保有し、プーチン大統領率いるロシア政府に次ぐ大株主となっている。BPからは2人が取締役の席に着いており、その1人がルーニー氏だ。

 ボストーク・オイル・プロジェクトはこの時まで、プーチン大統領が「野心的かつ有望」なものとして認めていたものの、その詳細はまだ十分な検討がなされていない段階にあった。

 だがルーニー氏が描く石油産業の将来像と、セチン氏がBPをはじめとする全ての株主から得た資金を投じて目指す未来の展望は、完全に食い違っていたはずだ。

続きを読む 2/2 北極圏は温暖化との戦いの場

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