米大統領選の結果をめぐって、トランプ大統領支持者が不正を訴え、議事堂を一時占拠した。「民主主義の弱体化」が懸念される。弱体化を促す動きは選挙の“入り口”である「人口調査」にも及ぶ。トランプ政権は「市民権の有無」を聞く問いを加えようとし、移民らを調査から遠ざけた。

トランプ大統領の支持者が議事堂を占拠した後、同大統領の退陣と拘留を求める米市民(写真=ZUMA Press/アフロ)

 米国の首都ワシントンで年明け早々、人の数、さらにその票の数え方が激しい怒りを巻き起こした。昨年11月に実施された米大統領選や、今年1月5日にジョージア州で投開票された上院議員の決選投票をめぐる激しい争いを振り返れば、何ら不思議なことではない。

 メディアはもっぱらこうした注目度の高い戦いを取り上げるが、米国の民主主義に関心があるのなら、数にまつわる注視すべきドラマがもう一つある。2020年の国勢調査だ。

 米国勢調査局は昨年末、混乱に満ちた1年が終わろうとする中、20年の人口数を12月31日の締め切りまでに発表することができない、との見通しを明らかにした。専門家が「収集したデータの処理を続けている」ためだという。

 国勢調査局は「21年初頭の、法定期日にできるだけ近い日にデータを提出する」と約束した。だが、新しいデータは何ら発表されていない。国勢調査に携わる統計専門家は通常、期日をきちょうめんに順守する。とりわけ、10年ごとの国勢調査に関してはそうだ(同じく国勢調査局が行う年間調査よりも重要だと考えられている)。

 この国勢調査の発表の遅れはさして重要ではないように思えるかもしれないが、人口集計の方法をめぐるより大きな問題を示唆している。以前にも述べたように、国勢調査が重要なのは、それが単なる統計作業ではなく、米国の市民生活の柱でもあるからだ。これらの神聖な数値は連邦政府が持つ資源の配分(例えば失業保険やワクチン接種など)や、選挙区の区割りを決めるのに使用する。

数えるのは住民か市民か

 ドナルド・トランプ大統領の下で、通常は退屈な一連のデータ集計プロセスが、かつてないほど政治的なものとなった。悲しいことに、トランプ政権が及ぼしたダメージを修復するのは容易ではない。問題となっているのは、誰を人口に数え入れるべきか、である。

 トランプ時代が到来するまで、国勢調査はすべての住民を集計すべきだと憲法が定めていると考えられてきた。ところが、トランプ政権が発足すると、彼らは「市民権を持つ者だけを集計すべきだ」と主張し始めた。そして市民権の有無を尋ねる問いを、国勢調査の書式に加えようとした。

 国勢調査を所管する商務省のウィルバー・ロス長官の主張はこうだ。共和党は不法移民が相当数に上ると見ている。この文脈において、市民権の有無を尋ねる国勢調査改革は理にかなっている(米調査機関ピュー・リサーチ・センターの推計によれば、17年現在、米国の住民のうち約1050万人が不法住民だという。これは全人口の3.2%に相当する)。

続きを読む 2/2 米官僚機構に広がる劣化

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り1545文字 / 全文3026文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

オリジナル動画が見放題、ウェビナー参加し放題

日経ビジネス最新号、9年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「世界鳥瞰」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。