全3468文字

ワクチンの一刻も早い普及が求められている。緊急性に鑑み、各国政府はワクチンへの信頼性を失わない範囲で創造的に接種を急ぐべきだ。ただし、ワクチン配布の国際枠組みCOVAXを有効に機能させ、公正に分配する必要がある。

ワクチンは2021年いっぱい品薄の状況が続きそうだ(写真=AP/アフロ)

 新型コロナウイルス感染症に対するワクチン接種の緊急性が、日に日に高まっている。英国と南アフリカで新たに見つかった2つの変異種が世界中に広がりつつある。これらの変異種は、毒性が強まっているわけではなさそうだが、感染力が非常に強い。このため治療すべき患者の数が増えすぎて病院がパンクする恐れがある。

 状況を救えるのは迅速なワクチン接種だ。しかし、ワクチンは2021年末まで供給不足が続く。その間、救いの手が届くようで届かない状態が続き、死者が増え続ける。無力感を覚えるばかりだ。

 細かい部分に適切に対応していけば、数十万人の命を救うことができる。そこを誤ると政府への信頼が崩れ、公衆衛生がもたらす恩恵や、世界が協調する力も信じられなくなる。

 政府の問題から見ていこう。政府に対する非難はすでに広がり始めている。イスラエルは1月5日までに国民の16%にワクチンを接種した。フランスはわずか0.01%、オランダはまだ着手したばかりだ。スペインでは、マドリード州が入手済みのワクチンの6%を使用したところだが、アストゥリアス州は既にその80%以上を接種した。

ワクチンは夜間でも接種できる

 米国では連邦政府が1月7日までに1730万回分のワクチンを供給したが、当初の目標には遠く及ばない。接種を受けた人は530万人にすぎない。

 こうした状況が生じる理由の一つは構造的なものだ。イスラエルのように小さな国なら、超低温で保存するワクチンを損なうことなく輸送できる。また、イスラエルの医療システムはデジタル化されており、接種を受ける人の身元確認や連絡が容易に行える。これに対して米国は広大だ。行政は州ごとに分かれ、医療も分断されている。

 行政の能力不足も一つの要因だ。各国は準備期間が何カ月もあったにもかかわらず、時間を浪費し、過ちを犯した。米国の連邦政府は年明け直前になるまで、ワクチン接種に備えるための十分な資金を各州に提供してこなかった。

 フランスでは反ワクチン感情が強く、役人たちは接種を進めることよりも合意を得ることに力を注いだ。年末の祝日期間にワクチン接種が停止したり滞ったりした地域もある。

日経ビジネス2021年1月18日号 96~97ページより目次