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ジョー・バイデン氏がいよいよ米大統領の座に就く。トランプ政権の4年間で、米国は国際社会の信頼を失った。この状態を改めるのに必要なのは多国間主義に立ち戻ることだ。そのために取り組むべき具体策とは。

ジョセフ・スティグリッツ氏
1943年米国生まれ。米アマースト大学卒、67年米マサチューセッツ工科大学で経済博士号取得。95~97年クリントン政権で大統領経済諮問委員会委員長、97~2000年世界銀行のチーフエコノミスト。01年にノーベル経済学賞受賞。現在は米コロンビア大学教授。
米大統領に就任するバイデン氏に、多くの困難が待ち受ける(写真=AFP/アフロ)

 新年を迎えて喜ばしい出来事がたくさんある。まず、安全で効果の高い新型コロナウイルスワクチンが開発され、同感染症のパンデミック(世界的大流行)のトンネルの向こうに明かりが差し始めた(まだこれから数カ月間は厳しい日々が続くだろうが)。

 同様に重要なのは、嘘つきで無能、かつ心根の卑しい大統領に代わり、正反対の人物がその地位に就くことだ。新大統領は良識があり、正直で、プロフェッショナル気質に富む。大統領に選出されたジョー・バイデン氏、その人である。

 だが、我々は幻想を抱いてはならない。バイデン氏は就任後、政権運営において数々の困難に直面するだろう。トランプ政権が進めた政策は米国に深い爪痕を残した。新型コロナ禍も、同政権がほとんど何の対処もしなかったため、傷痕を一層深めることになった。

 経済が負ったトラウマを一朝一夕に癒やすことはできない。この極めて重要な危急の局面において、包括的な支援策を導入しなければ、苦悩は長引くだろう。支援策には資金力の乏しい州政府や地方政府へのサポートも含まれる。

4年後にすべて覆りかねない

 もちろん、米国の古くからの同盟国は、米国が民主主義と人権のために立ち上がるとともに、パンデミックや気候変動などグローバルな問題に各国と協力して対処する世界の復活を歓迎するに違いない。

 しかしながら、ここでも、世界が根本的に変わってしまったことを認めないふりをするのは愚かなことだ。結局のところ、米国は信頼できない同盟国であることを、自ら露呈してしまったのだから。

 確かに、合衆国憲法および50州の憲法は、トランプ大統領が抱く最悪の邪悪な衝動*1に屈することなく、米国の民主主義を守り抜いた。だが、7400万人の米国人が、ルールを無視したグロテスクなトランプ氏の治世がさらに4年間続くことを望んだ事実におののきを感じる。

*1=トランプ大統領が、大統領選で不正が行われたと訴え、法廷闘争を進めたことを指す

 2024年に予定される次の大統領選挙はどのような結果をもたらすだろうか。進めた政策のすべてをわずか4年後に覆しかねない国を、他の国々が信頼するはずがない。

 世界はトランプ流の偏狭な取引術以上のものを必要としている。米国も同様だ。真の多国間主義こそが、前に進むための唯一の方法である。多国間主義の下では、世界共通の利益と価値、国際機関が、米国を例外扱いする考えより真の意味で優先される。米国も法の支配の例外とはならない。これは大きな変化だ。米国が、長い間君臨してきた覇権国から、パートナーシップを基にした秩序のメンバーに変わることを意味する。

日経ビジネス2021年1月11日号 86~87ページより目次