環境重視型の経済への移行が加速するにつれて、銅価格も上昇基調を強めている。EVや風力発電など、クリーンエネルギー向けに需要は高まるも、供給が追い付いていない状況が背景にある。供給不足解消には新たな鉱山開発が求められるも、困難やリスクも多く、投資家は及び腰になっている。

最近の銅価格の上昇は、グリーンエコノミー重視に伴い幕を開けた「長きにわたる強気相場」の始まりにすぎない。銅価格は2011年初めに記録した過去最高値、1トン=1万ドルの水準を突破するだろう──。このように見るアナリストやトレーダー、投資家が増えている。
世界で最も重要な工業用金属の一つである銅の価格動向を示す国際指標、ロンドン金属取引所の銅3カ月先物価格は、このほど3月につけた底値から急伸し、70%以上値上がりして7年ぶりの高値、1トン=7900ドルに達した。
値上がりはさらに加速するだろうと投資家は話す。環境重視型の経済への移行に伴う銅線の需要急増が、価格上昇のけん引役になるという。
業界関係者の見るところによれば、電気自動車(EV)はガソリン車に比べて配線などに4倍近く銅を使う。太陽光パネルや風力発電に至っては、原油や石炭を使った化石燃料発電よりも5倍ほどの銅が必要だ。新しい鉱山が発見され、速やかに開発されない限り、需給のひっ迫は避けられないとアナリストたちは見ている。
「世界のあちこちで景気刺激策が発表されているが、これらの計画にはすべて共通点がある。銅を大量に使うことだ」。大手商品商社、トラフィグラで銅取引部門の責任者を務めるコスタス・ビンタス氏はこう語る。同社は昨年、400万トンを超える銅を取引した。
銅関連株の株価も急騰している。世界最大の独立系銅生産業者の一つ、米フリーポート・マクモランの株価は今年、およそ90%上昇した。カナダのファースト・クァンタム・ミネラルズも60%以上値上がりしている。
「カーボンニュートラル」が追い風
再生可能エネルギーにまつわるインフラプロジェクトや、EVの需要拡大を背景に、世界における精錬後の銅の消費量は20年の2340万トンから30年には3330万トンに増加すると、トラフィグラは試算する。一方、精錬後の銅の生産量は現在、2380万トン前後にとどまる。
20年、日本および韓国を含む数カ国が50年までに二酸化炭素(CO2)排出量をゼロにする、カーボンニュートラルの達成を目標に掲げた。欧州連合(EU)もCO2排出量を向こう10年間で最低55%引き下げる計画を発表した。
だが最も注目を集めているのは中国だろう。習近平(シー・ジンピン)国家主席は、今後10年間に風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーの生産能力を現在の3倍近くにまでに引き上げると宣言したからだ。12月、国連気候サミットにおいて習氏は「中国は常に約束を守る」「我々はあらゆる局面において、グリーンエコノミーへの移行と社会的発展を促進する」と、世界各国の指導者たちを前に述べた。
アナリストたちによれば、こうした中国の動きは環境重視型政策への完全なる移行を意味しており、今後10年間で銅の需要が大幅に拡大するであろうことを意味するという。トラフィグラは、中国が送電網や再生可能エネルギーへの投資を大幅に拡大するに伴い、中国だけで銅需要は21年に80万トン近く増加すると考えている。
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