米トランプ政権は外交手段として、国や企業や個人に対する制裁措置を多用してきた。しかし、中東のイランや、シリア、レバノンなどに対する制裁は効果が上がらない。制裁が国際協調を欠くうえ要求に現実性がなく、しかもご都合主義的に発動されるためだ。

<span class="fontBold">トランプ政権下の米国は、イランへの制裁を強めてきたがイランの核開発計画を止めることはできなかった</span>(写真=AP/アフロ)
トランプ政権下の米国は、イランへの制裁を強めてきたがイランの核開発計画を止めることはできなかった(写真=AP/アフロ)

 レバノンのキリスト教政党を率いるゲブラン・バシル氏は、2019年9月にニューヨークを最後に訪れたとき、もう少し買い物を楽しんでおくべきだったかもしれない。バシル氏は当時レバノンの外務大臣を務めており、かつ次の大統領になることを強く望んでいた。訪米中、ニューヨーク州ウェストポイントにある米陸軍士官学校を訪問した際には、レバノン経済を破綻させた政治の腐敗を厳しく非難した。

 しかしバシル氏はもはや米国を再び訪れることができないかもしれない。米国が同氏を汚職の疑いでブラックリストに載せたためだ。

 11月6日に発表されたバシル氏に対する制裁は、米国のドナルド・トランプ大統領がレバノンの政治家個人に対して取った措置の中でも際立つものだった。しかし、トランプ政権が何を目指して同氏を制裁リストに載せたのか、どうもはっきりしない。この措置はレバノンにとって、8月に起こったベイルート港での大爆発事故の後遺症が残る中での新政府樹立に向けた動きを妨げるだけだ。

 米政府高官は今回の措置についていくつかの矛盾した理由を挙げる。そのことが制裁を乱発するだけの、米国の外交政策の一貫性のなさを浮き彫りにしている。

 米財務省はトランプ政権の最初の3年間で、主要な制裁対象リストに年平均にして1070人の名前を加えた。バラク・オバマ政権下では同533人、ジョージ・ブッシュ政権下では同435人だった。現在リストに載っている8600件の制裁のうち、20%以上がイランおよびイランの影響が強いアラブの4カ国、イラク、レバノン、シリア、イエメンに関連したものとなっている。

空回りする「最大限の圧力」

 トランプ大統領が言うところの「最大限の圧力」は、戦術的には効果を上げたと言える。イランからの原油輸出量は2年前には1日当たり250万バレルだったが、20年4月には7万バレルまで落ち込んだ(ただ、イランの原油取引の多くは秘密裏に行われているため、正確な数字の確認は難しい)。イランの通貨リアルは85%も下落した。

 しかし、経済的な痛みは政治的な変化をもたらさなかった。

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