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1980年代から続いてきた台湾企業による中国への投資にブレーキが掛かっている。台中間の政治的な冷え込みや米国の圧力に加え、台湾企業の技術的優位が失われつつあることも背景にある。台湾の若い世代は中国での仕事に熱意を抱かない。台湾企業の中国事業黄金期は終焉を迎えたようだ。

台湾の蔡英文総統(中央)と、訪台したクラック米国務次官(左)、TSMC創業者の張忠謀氏(写真=Taiwan Presidential Office/AFP/アフロ)

 先日の朝、中国江蘇省崑山にある厚声集団(ユニロイヤル)の工場の前に、数百人の求職者が列をなした。崑山は、上海から西に車で1時間ほどの距離にある。厚声は台湾企業で、韓国のサムスン電子や日本の東芝向けに電子部品を製造している。新規採用される工員は月に4000元(約6万3000円)稼げるという。現地の最低賃金の2倍だ。

 崑山には、厚声のような台湾の製造業が数百社進出している。ここに住む台湾人は10万人を超える。「リトル台北」と呼ばれる崑山を見れば、台中間の動きがよく分かる。台湾から訪れ中国本土で暮らす人は120万人に上るとみられ、台湾の人口の5%に相当する。多くはビジネスに関わる人々だ。

 中国は台湾を自国の領土の一部と見なしている。だが台湾の経済界は、中国とのこの悩ましい政治関係をビジネスの妨げとしないようにしてきた。過去30年間に台湾企業が中国本土での事業に注ぎ込んだ投資総額は1900億ドル(約20兆円)に及ぶ。

 米アップルなどに製品を納入する台湾の受託製造大手、富士康科技集団(フォックスコン、台湾の鴻海=ホンハイ=精密工業傘下)は中国国内で100万人を雇用する。これほどの人数を雇用する民間企業はほかにない。

 欧米諸国は、共産主義中国の勢力拡大に疑念を強めている。米国の次期大統領ジョー・バイデン氏は、この流れを和らげるかもしれないが、逆転させることはないだろう。

日経ビジネス2020年11月30日号 108~109ページより目次