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ワクチン開発が進展したとのニュースを受け、景気回復局面を見据えた投資戦略を練り始める投資家が出始めた。インフレも意識され始め、カネ余りに依存した投資家の過度なリスク志向にブレーキがかかる効果も期待できる。FRBはインフレリスクを否定するも、投資家が将来の環境変化に対応しきれなくなる前に手を打つ必要はあるだろう。

ジェローム・パウエルFRB議長をはじめとする政府関係者は、物価の弱さを理由に、インフレは当面起こらないと考えている(写真=代表撮影/ロイター/アフロ)

 11月9日の週、金融市場は歓迎すべき2つの好材料に沸いた。1つ目は言うまでもなく、ワクチン開発に関するニュースだ。米ファイザーと独ビオンテックが共同開発している新型コロナウイルスのワクチンが、かなり高い効果を持つと臨床試験で確認されたのだ。米国有数の感染症の専門家で米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の所長を務めるアンソニー・ファウチ氏が本紙(英フィナンシャル・タイムズ)に語ったところ、近いうちにワクチン開発に関する次の発表もあるという。

 この報道を受けて、2021年中に新型コロナウイルスの感染拡大に伴うロックダウン(都市封鎖)が終息するとの希望が広がっている。投資家は景気回復シナリオに沿ったポジションの構築に向けて動き始めている。市場では10年物米国債の利回りが1%の大台に向けて小幅上昇し、割安株の株価が急騰した。対照的に多数のIT関連銘柄の株価が急落した(IT業界はロックダウンの恩恵を最も大きく享受する業界の一つと見なされていたといえる)。

 一方で、2つ目の好材料はあまり明白なものと見なされていない。そもそも政策担当者の多くが、このニュースを好材料に分類しようとはしないだろう。それは、長らく鳴りを潜めていたインフレリスクが再燃する恐れがあるとの声が市場で高まりつつあることだ。

 米ゴールドマン・サックスは10日発表のリポートで、21年の主要テーマの一つはインフレ懸念が高まる中、イールドカーブ(利回り曲線)の傾きが大きくなることだと顧客に警告した。イールドカーブとは複数の残存期間の債券利回りを線で結んだ曲線を指すもので、景況感を表す指標の一つとして知られている。

日経ビジネス2020年11月23日号 98~99ページより目次