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中国アリババ傘下にあるフィンテック企業、アント・グループの上海・香港上場が直前になって突然延期された。ジャック・マー氏の当局批判が引き金と見られたが、習政権は企業管理の標的を民間のIT企業に定めたようだ。習氏は、ほぼ全国民の情報と金融システムを握るテック大手を管理下に置く姿勢を鮮明にしたと言える。

銀行界の大物や政府要人が出席する会合で、マー氏が「中国の銀行は質屋程度の感覚で営業している」と発言したことが当局の怒りを買った(写真=AFP/アフロ)

 中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席はかつて2018年11月、中国の主な起業家を集めて座談会を開き、国が民間企業相手に宣戦布告したのではないかとする懸念を静めようとしたことがある。中国政府がこの1年ほど前から、経済界の中で反抗的な態度を取る大物経営者を屈服させる措置を取ってきたことは事実だ。しかし、習氏は中国共産党が民間セクターに対する影響力を強めるとの噂は真実ではないと断言し、安心するようにと訴えた。

 それでも経営者らは安心してはいられなかった。以降、共産党は企業の人材採用や事業判断に積極的に介入しようとし始めている。大きくなりすぎた金融コングロマリットの身勝手な経営者たちを屈服させた政府は、今やテック業界の富豪たちに矛先を向けようしている。無遠慮な批判に対しては容赦しないという姿勢を明確にしている。

 習氏はこれまで常に、中国社会と金融の安定、そして維持を一番の課題と考えてきた。大企業の抑え込みはその計画の一端といえる。

 政府が急速に拡大するIT業界に狙いを定めるのは当然のことだ。中国の市場時価総額上位20社のうち6社がIT企業であり、膨大な利用者を抱えるこれらの企業は、ほぼすべての国民の生活と財布を握っている。

 IT業界に対する是正の動きは、中国最大のフィンテックグループであるアント・グループ(螞蟻集団)への警告と受け取れる動きから始まった。アントは11月5日に株式の新規上場を予定し、370億ドル(約3兆9000億円)の調達を見込んでいたが、規制当局がそのわずか2日前に上場延期を発表したのだ。この措置は最初、中国の国有銀行に対する批判を口にしたアリババの創業者、馬雲(ジャック・マー)氏に対する警告と単純に解釈された。しかし、10日にはIT企業に対する新たな規則の詳細案が公表され、アントばかりでなく、中国のIT業界全体を服従させようという政府の大きな思惑が明らかになった。

大規模な海外投資は終了

 習氏と中国経済界の大物たちとの関係は、13年に彼が国家主席に就任して以降、ずっと波乱含みだった。彼が前任者から引き継いだ民間企業にまつわる制度はごまかしに満ち、規制は首尾一貫せず、民間債務が積み上がっていた。主に役人を標的とした腐敗撲滅運動が成果を上げた後、習氏は高リスクの海外投資に巨額の資金を注ぎ込んでいた実業家たちに狙いを定めた。