独フォルクスワーゲン(VW)は、電気自動車(EV)時代に向け懸命に改革を進める。グループCEOディース氏の前には、複雑な社内統治やソフトを巡るテック大手との戦いが立ちはだかる。だが同氏はEVで利益を上げる未来を見据え、VWは前進していると主張する。

<span class="fontBold">自身の経営に評価を下すのは時期尚早と語る</span>(写真=ロイター/アフロ)
自身の経営に評価を下すのは時期尚早と語る(写真=ロイター/アフロ)

 欧州各国の政府は今、新型コロナウイルス感染の新たな拡大と戦っている。他方、自動車世界最大手、独フォルクスワーゲン(VW)・グループの最高経営責任者(CEO)であるヘルベルト・ディース氏は独自の戦いに挑む。

 内燃エンジンの時代が終わりに近づき電気自動車(EV)への移行が進む中、2018年にグループCEOに就任した同氏は、同グループが時代の流れに乗り遅れる恐怖に突き動かされてきた。

 同氏は独ヴォルフスブルクに広大な敷地を有するVW本社で本紙(英フィナンシャル・タイムズ)の取材に応じ、「他社との差異化を生み出す我が社の強みの多く、我々の知識のすべて、我々が実際に持っている能力が、もはや重要な意味を持たなくなる」と語った。

 「これはまさにアグファやコダックに起きたことだ。彼らは何が起きつつあるかを知っていたが、それでも変われなかった」。デジタル革命の波にのまれて転覆した写真用フィルム最大手、ベルギーのアグファ・ゲバルトと米イーストマン・コダックのことだ。

 VWは、EV事業に330億ユーロ(約4兆円)を投じると既に公言している。この投資により同社の株式時価総額はいずれ3倍の2000億ユーロ(約25兆円)に達するとディース氏は期待する。そうなれば、自動車業界の巨人として、米テスラのようなEVの開拓者とも張り合える未来が訪れるという。

 しかし、新型コロナ危機は自動車業界にさらなる打撃を与えようとしている。「コダックのような企業は自己満足に陥っていた」と指摘する程度では、ディース氏がEVで利益を上げる未来を実現できると、グループ内外の全関係者を納得させられるとは思えない。

イーロン・マスク氏も同情

 この夏に複数のバッテリー工場が操業を停止したため、VW初のEV大衆車である「ID.3」と傘下のアウディの「e-tron」は発売が遅れた。その結果、VWグループが20年度に、欧州連合(EU)が課す厳しい排ガス規制基準をクリアできるか危うい状態にある。違反すると数億ユーロの罰金を科される可能性がある。

 また、VWの労働組合は、EVへの移行に必要な資金を捻出するためのコスト削減案に反発してきた。株主も、ディース氏が最近犯したいくつかの過ちにより、高度に政治的なこの組織に対する影響力を低下させたと懸念する。

 同氏が陥った苦境は、テスラの創業者イーロン・マスク氏の同情を買ったほどだ。マスク氏は10月、ディース氏は「あまりに多くの利害関係者を喜ばせなければならないため、難しい立場にある」とツイートした。

 苦境の一端は自ら招いたものだ。ディース氏は今年6月、新型「ゴルフ」にソフトウエアの不具合が見つかった件で、情報が外部に漏れて会社が損害を被ったとして、漏えい元として監査役会のメンバーを非難した。監査役会には労働組合の代表も参加する。後に同氏は謝罪を余儀なくされた。

 さらにディース氏は、グループ最大のVWブランドのCEO職を剥奪された。同氏が独BMWからVWに転じた15年以来ずっと務めてきたポストだ。

 ディース氏は、敷地内の工場を見下ろすオフィスで、6月の監査役会でのいざこざが、VWを変革する自身の能力への「疑念」を生んだことを認めた。

 「ガバナンスが機能していることを証明する必要がある。すべての利害関係者を納得させ、協力させることは今なお難しい課題か、と問われるなら、その通りだ。これは複雑な話なのだから。組合とも密接に関係する。VWグループの中には様々な利害関係者がいる」

 同氏はまた、商用車を製造する関連会社MANトラック・アンド・バスのリストラ計画をめぐって問題が起こるのではとの観測を否定した。MANはEV技術を推進する資金を作るべく9500人の人員削減を計画している。MANの経営陣が9月に労働組合との合意を破棄した際、VW従業員協議会のベルント・オスターロー会長は、同社は「リストラと解雇の不安とをリンクさせない分別ある行動を」取るはずだと警告した。

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