トルコの通貨リラが史上最安値を更新した。心理的節目である1ドル=8リラも割り込んだ。政府はトルコ経済の競争力強化につながると強弁するが、輸入物価の上昇は国民生活を苦しいものにしている。エルドアン大統領が海外での紛争に積極的に関わるのは、国民の目を経済からそらす意図がありそうだ。

<span class="fontBold">イスタンブールの両替所。リラの先行きを懸念する人々が列をなす</span>(写真=AFP/アフロ)
イスタンブールの両替所。リラの先行きを懸念する人々が列をなす(写真=AFP/アフロ)

 メリケ・デミログルさんは、「通貨トルコリラの大幅下落はトルコにとっていいことだ」と主張する人々に耳を貸す気はない。25歳のメリケさんは糖尿病を患っていて、インスリン注射が欠かせない。インスリン注射の月額料金はドルと連動している。「ドルが値上がりすれば、インスリン注射の値段も上がる」と嘆く。

 10月26日の週、リラは暴落して史上最安値を更新。心理的節目である1ドル=8リラも割り込んだ。労働者階級の人々が多く住む町ママク(トルコの首都アンカラの郊外に位置する)では、多くの人がリラの下落を伝えるニュースに心配げに見入った。その中に、メリケさんの姿もあった。

 2歳の孫を連れて遊び場にやってきたエミネ・サヒンさん(54歳)は、こうこぼす。「何から何まで値段が高すぎる。果物でも野菜でも、洋服でも、あらゆるものが為替相場の影響を受ける」

 リラは今年に入って対ドルで25%以上下落した。政府高官は、このリラ安を前向きに捉えようとしている。レジェプ・タイップ・エルドアン大統領の娘婿で財務相を務めるベラト・アルバイラク氏は、リラ安はトルコの競争力強化につながると繰り返し主張する。

発言と裏腹な政府の為替介入

 同財務相によれば、リラ安に対する不満を口にするのは、ドイツの高級車BMWを買いたいとか、休日を海外で豪華に過ごしたいとか考えている人たちだけだ。今年8月、CNNトルコのインタビューに答えて「(普通の人たちは)そんな心配をしていない」と語っていた。

 だが、この発言が真実でないことを政府自身の行動が示している。米大手投資銀行ゴールドマン・サックスによれば、トルコ当局はリラの買い支えに失敗し、過去18カ月間で推定1340億ドル(約14兆円)をどぶに捨てた。

 ロンドンを拠点に活動するあるアナリストは、匿名を条件にこう語った。「為替介入によりトルコの外貨準備が大きなダメージを受けているにもかかわらず、10月26日の週も介入は続けられた」

 トルコの政治家は、通貨リラの下落がトルコ企業に打撃を与えるのを承知している。トルコ企業は2460億ドル(約25兆7000億円)に上る外貨建ての負債を抱えているのだ。加えて、国民がリラ相場を同国経済の全体的な健全性を測る物差しとみていることも十分に認識している。ニュースを次々と流すディスプレーの一角にはリラ相場の動向が常に表示されている。

 メリケさんのように、リラ相場の影響を直接受ける人もいる。彼女の懸念はインスリン注射の価格にとどまらない。彼女の両親は、フランスで暮らす親戚からユーロ建てローンを借りている。リラが下落すればするだけ、ローンの返済が困難になる。

 彼女の家族は、税引き後で月額2300リラ(約2万9000円)の父親の給与に依存している。これは最低賃金にほぼ等しい金額だ。「好むと好まざるとにかかわらず、私たちは今、厳しい状況に置かれている」(メリケさん)

続きを読む 2/2 経済危機は対外強硬姿勢生む

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