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中国が、台湾の政権と市民に対する圧力を強めている。台湾の人々の心を引き寄せる人的交流の努力を進める半面、軍事的な脅しも続ける。中国の市民の間にも、台湾を力で圧倒できるとの意識が広がりつつあるようだ。

台湾の蔡英文総統。同氏の姿勢に中国は警戒を強める(写真=AP/アフロ)

 中国共産党は、車に貼るステッカーで知られる政党ではない。ブレーキランプ横にある15cmほどのスペースに収められた政治思想のスローガンのことだ(筆者は米ケンタッキー州の選挙を取材した際に、共和党候補が使用する車のバンパーに「石炭、銃、自由」とだけ書かれたステッカーが貼ってあるのを目にしたことがある)。

 共産党のスローガンは、赤い横断幕にプリントして街頭に掲示するものなので、必ずしも語呂のいい言葉である必要はない。例えば「新たな時代に向けて、中国的特徴を備えた社会主義についての習近平(シー・ジンピン)思想の偉大なる旗を高く掲げよ」といった類いだ。

 こうしたややこしい言い回しに耐える力を持っていれば、台湾に対する中国指導部の姿勢を理解するのに役立つ。台湾に対する中国の主張は混乱していて矛盾だらけだからだ。台湾は民主主義的に統治される島。中国はこの島を本土と統合されるべき一つの省であると見なしている。

 中国の指導部は、一方では、台湾に暮らす2400万人の市民との深い血のつながりや共通点を語る。台湾では、自らを中国人と見なす人の割合が年々減っているにもかかわらずだ。

甘い言葉と戦太鼓

 台湾を引き寄せようとする中国の政策は、本土の市場を餌に台湾の企業経営者を口説くことにとどまらない。

 台湾の人心をつかむための事業にも取り組んでいる。新型コロナウイルスの感染拡大で本土と台湾の行き来が難しくなっている中でさえ、こうした事業に携わる中国の公的組織は、小さいながらも存続しているのだ。彼らは相変わらず台湾海峡の両岸の人的交流を図り、サマーキャンプや見学ツアーなどを企画している。

 その一方で、台湾に向けられる中国の甘い言葉はしだいに、鳴り響く戦太鼓の音にかき消されつつある。中国の国営テレビ局はこのところ毎晩のように、台湾のスパイとされる人々が「ざんげ」する映像を流している。中国全土で展開される摘発作戦によって逮捕された人たちだ。

 中国共産党の機関誌「人民日報」は、国の情報機関である国家安全部が寄稿したスパイ摘発調査に関する論説を掲載した。「警告しなかったとは言わせない」という表現で、必要とあれば台湾に対する武力行使も辞さないとする断固たる姿勢を示している。中国はこれまで、他国に対して軍事行動を起こす前に同様の表現を用いてきた。

 中国はここ数カ月、台湾近海上空への軍用機の出撃回数を、いつも以上に増やしている。特に、米トランプ政権の要人が台湾を訪れている時には頻繁になる。軍事演習を実施する頻度も高まった。

 対外的に強硬な姿勢をとるタブロイド紙「環球時報」は最近、沿岸部の基地に「極超音速ミサイル」が配備されたとする「噂」を取り上げた。そして、これは米国およびその同盟国の軍艦に脅威を与え、台湾とのいかなる交戦にも介入させないために理想的な兵器であると、わざわざ説明を加えた。

 太平洋の島国フィジーに駐在する中国の外交官たちも負けていない。10月8日、台湾の高官が地元のホテルで開催した中華民国の建国記念日に当たる「双十節」の祝賀式典で、けんか沙汰を起こしたのだ。台湾の外交官が頭にけがを負い病院で治療を受けたが、中国外務省の報道官は、この暴力事件の原因は会を開いた台湾側にある、台湾の旗と自称するものがケーキの上に挑発的に飾られていた、として非難した。

 中国側が好戦的な発言を増やしている背景には、米国政府が台湾支持の姿勢を強めていることに対する怒りがある。中国は台湾の政権と市民に対し、米国の保護に頼ると自らの破滅を招くと伝えたいのだ。

 中国共産党の幹部は、台湾は中国と呼ばれる国の一部であるという主張に同意する台湾の人々だけを相手にする。それゆえ、彼らが交渉できる相手は台湾の国民党ということになる。国民党は、かつて中華民国を治めた政権の末裔(まつえい)だ。共産党の人民解放軍との内戦に敗れ、台湾島に逃れた。

 台湾の総統を務める蔡英文氏や与党の民主進歩党は、中国共産党の交渉相手に含まれない。慎重な性格で猫好きの穏健派である蔡氏は、中国では危険な過激派という扱いだ。蔡氏は、台湾という島はそれ自体で1つの国であるという趣旨の発言をしているが、危機的状況に陥るのを避けるため、それが何を意味するかについては曖昧なままにとどめている。

 中国による脅し文句にはたいてい、台湾が母国の抱擁を受け入れたなら繁栄する未来が待っている、という意味の短い文言が付け加えられる。このもろ刃のメッセージをステッカーに書き込める長さに縮めるとこうなる。「帰ってこい。さもないと殺すぞ」