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グーグルが世界のニュースメディアに対し、コンテンツ使用料として計10億ドルを支払うと発表した。巨大IT企業がメディアを衰退させたとの批判に応える形を取ったが、メディアの苦境は今に始まった話ではない。新たな環境に適応するメディアも存在するだけに「巨大IT企業たたき」と同じ文脈でメディア救済を語ってはならない。

グーグルなど、巨大IT企業に対抗すべく、政府に救済を求めるメディアも出始めている(写真=ロイター/アフロ)

 17世紀初めのロンドンにおいて、情報収集にうってつけの場所は由緒あるセントポール大聖堂だったという。ゴシップが飛び交う、礼拝の場には似つかわしくない側面を持ち合わせていた。情報提供者の中にはこうしたゴシップを「ニュースレター」に仕立て上げ、法外な値段で売りつける者もいたほどだ。

 そして今、約400年の時を経てこうしたビジネスモデルが再びよみがえろうとしている。

 動きが出るまでに時間がかかったのは理由がある。新聞は約2世紀にわたりマスマーケットに君臨し続け、威信と利益を得てきた。その時代が今、ようやく終わりを告げようとしている。新聞の収入源は読者からの購読料ではなく、読者をターゲットにした広告収入だった。生産コストを下回る販売価格を設定できたのは、多数の読者を集められたからにすぎない。

 「ユーザーが対価を支払わなくてもよいのは、実はユーザーそのものが『商品』になっているからだ」。現在、プラットフォームサービスの利用者に対してこんな皮肉を言う者がいる。だが新聞広告が全盛期だった頃の新聞読者についてもほぼ同じことが言える。新聞社は読者を商品として差し出し、広告収入を得ていた。

20年で80%広告収入が減少

 それも今となっては昔の話だ。インターネットの普及により、広告に支えられた紙媒体のビジネスモデルは頓挫した。米国における新聞広告収入はこの20年で約80%減少し、大恐慌時代の水準まで落ち込んでいる。発行部数はほぼ半減した。オンライン版の利用は急増しているが、デジタル広告収入は紙離れの減収分を穴埋めするには至っていない。

 メディア業界の新たな主要プレーヤーは、米グーグルや米フェイスブックといったプラットフォーマーだ。英国の競争・市場庁(CMA)によると、英国での検索連動型広告収入の90%超はグーグルが、全ディスプレー広告の評価額の半分をフェイスブックが占めているという。

 その一方で過去2年間、両社へのインターネットアクセスのうちおよそ4割が全国紙の記事へと飛んだという。CMAは今年7月、広告配信主体のオンラインプラットフォームが、信頼できるニュースメディアの衰退を加速させる恐れがあると警告した。

 この力関係の変化を受け、多くの国では新聞社が政府に対して巨大IT企業への対抗支援策を求めている。