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中国政府は新疆ウイグル自治区で、ウイグル族を強制的に漢民族に同化させる政策を進めている。イスラム教徒を強制収容所に拘束して習近平思想に「教化」し、ウイグル女性を漢民族と結婚させる。これは現代における最大の人権侵害であり、自由主義を掲げる民主主義国は批判と制裁を続けなければならない。

ウイグル人を強制収容し、同化政策を施しているとされる、職業教育訓練センター(写真=AFP/アフロ)

 新疆ウイグル自治区の実態について最初に聞いた時は耳を疑った。中国政府が旧ソ連のような強制収容所を作りイスラム教徒を拘束することなど、あるわけがない。ウイグル人を「過激派」と決めつけ、公共の場で祈りをささげたり長いひげを生やしたりするだけで収監するなどということが本当にあるのだろうか、と。だが新疆上空の衛星画像や中国政府の公式文書のリーク、そして生存者からの生々しい説明を見聞きするたびに衝撃は増していった。

 中国政府は2018年に方針を転換し、それまで否定していた収容所の存在を「職業教育訓練センター」であると認めた。教育の遅れた人民に労働市場で通用するスキルを身に付けさせているのだという。

 だが、世界はそれをうのみにしてはならない。中国の威圧的な教化の犠牲となっているウイグル族に注意を向けるべきだ。収容所にいた人々によれば、過激思想を捨てて、コーランではなく習近平思想を信じるよう毎月繰り返し教え込まれるのだという。看守が収容者に「神はいるか」と尋ね「いる」と答える者は殴られると話してくれた人もいる。こうした強制収容は、中国が実施する大掛かりな社会統制のほんの一端にすぎない。

 中国において、人口1200万人のウイグル族は反抗的な少数民族だ。彼らが話すチュルク語は中国語とは大きく異なる。大半がイスラム教を信仰する。その中のほんの一握りの人々が、43人が死亡した14年の市場爆破事件などのテロを実行した。

 テロ事件は17年以降一度も起きていない。これは治安を強化し、過激主義を抑える教育を行ったことで新疆ウイグル自治区が再び安全な地域になった証拠だと中国政府は主張する。だが別の見方もできる。中国政府は一握りの暴力的な者を捕縛するよりも、全てのウイグル人を事実上の野外監獄に閉じ込めたという見方だ。

 住民は収容されていなくても、教化のために集会へ参加することを求められる。中国の国家主席を大げさに褒めたたえることができない者は収容施設に送られる危険がある。住民は他の家族を監視し、疑わしい行動を報告しなければならない。

 収容所に送られた片親または両親と離れて暮らす子どもは数十万人いると推定される。一時的に孤児となったこれらの子どもの多くは寄宿学校に入れられる。彼らの家庭には中国共産党の幹部(通常は漢民族の中国人)が「親戚」として送り込まれる。

 中国では多くの子どもを持つことが禁じられているが、この規則はウイグル人女性に対しては特に厳しく適用される。不妊手術を受けさせられる人もいる。統計によると、新疆ウイグル自治区の2つの県では、出生率が15年から18年の間に60%以上低下した。ウイグル人女性は漢民族の男性との結婚を強く促される。快諾すれば仕事を得られたり、親戚が収容所入りを免れたりといった見返りがある。

 こうした脅しは国外にまで及ぶ。ウイグル人が国外と連絡を取ること自体に疑いの目が向けられるため、在外ウイグル人は家族の逮捕を恐れて自宅に電話することさえ控えている。

世界に広がる人権軽視の潮流

 人間は誰しも自由や尊厳といった権利を有する。中国政府によるウイグル族への組織的迫害は、こうした大原則に反する世界最大規模の人権侵害だ。

 中国共産党は、個人の権利という概念とは無縁の存在だ。共産党は、多くの国民に安定と経済成長をもたらしてきた実績を盾に、自分たちの行いを正当化する。一党独裁のもとでは正確な世論調査は不可能だ。また、検閲があるため、一般の中国国民は支配者についての真実を知る由もない。

 このような体制下ではチベット族やウイグル族など政府に協力的でない少数民族に保護は与えられない。中国政府は個人の権利といった観念を持たないため、こうした人々をちゅうちょなく恐怖で服従させ、主流の漢民族の文化に無理やり同化させようとしてきた。

日経ビジネス2020年10月26日号 104~105ページより目次