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ロシアの企業が、新型コロナ禍を機に、採用の対象を全国に広げ始めた。ロシアは教育水準が高く、地方の都市にも優秀な人材がたくさんいるが、従来は生かせていなかった。規制緩和もこの動きを後押しする。転職に必要な書類のデジタル化が始まった。

アルファバンクは雇用の対象を全国に広げた(写真=ロイター/アフロ)

 ロシアの民間大手銀行アルファバンクの最高経営責任者(CEO)、ウラジーミル・ベルホシンスキー氏はこの9月までずっと、タルーサ出身者は自分だけだと考えていた。タルーサは人口わずか9000人の小さな町だ。

 しかし、行内に同じ町の出身者が他に3人いることが分かった。いずれも今年の夏、全国から幅広く人材を募る活動の一環で、IT(情報技術)部門が採用した人材だ。新型コロナ危機で、もはやモスクワや他の一握りの大都市だけに人材を頼ることがなくなった。

 コロナのため、企業はリモート勤務への移行を余儀なくされている。これに伴い、多くの採用担当者が、1億4500万を超える国民全体を採用の対象とするようになった。国民の大半は、企業が集中するモスクワやサンクトペテルブルクなどの大都市から何千マイルも離れた場所に住んでいる。ロシアの国土は広大で、11の時間帯にまたがる。

 ベルホシンスキー氏は本紙(英フィナンシャル・タイムズ)に次のように語る。「タルーサはすてきな町だが、仕事を得るためには町を出てモスクワに行くしかない。そうしなければ、にっちもさっちもいかなくなる」

 「これまでロシアでは、広大な国土が多くの開発の障害となってきた。だが我々は今全く新しい現実を迎えつつある」(同)

 アルファバンクは昨年まで、プログラマー、IT開発者、データサイエンティスト全員を、大きなオフィスを構えるたった5つの都市でのみ採用していた。

世界に誇る教育水準

 それがベルホシンスキー氏によれば、今年、新規に採用した者の3分の2はこれらの都市以外の地域に住んでいる。その多くがこれまでに人事担当者と対面で会ったことがないという。同行は最近、ロシア南部の小さな都市にコールセンターを開設した。そこで働く50人のうちオフィスに通うのは2人だけ。オフィスはシェアオフィスだ。

 マッキンゼー・アンド・カンパニーのロシア拠点に勤務するセミョーン・ヤコブレフ氏は「新型コロナ危機がこのトレンドを加速させている。モスクワやサンクトペテルブルク以外の場所に住む優秀な人材にとって、地域の雇用情勢は明るさを増している」と話す。

 同氏は次のように指摘する。「パンデミック(世界的流行)以降、すでにロシア企業数社がリモート勤務と出社を組み合わせたハイブリッドの勤務形態か、完全なリモート勤務にすると発表している。リモート勤務を競争優位に変えるには、様々な工夫が必要だ。効果的な勤務体制を設計し、他人を気遣う文化を育むことが、テクノロジーの活用と同じく重要かもしれない」

 ソ連時代の遺産として、ほとんどのロシアの都市には大学や専門学校など、高校を終えた学生のための各種教育機関がある。政府のデータによれば、その大半が無料だ。

日経ビジネス2020年10月19日号 86~87ページより目次