全3258文字

水素を燃料とする電動トラックを開発する新興メーカー、ニコラの株価が技術誇張の疑惑で暴落している。電動トラック製造から水素の供給網までを一貫して請け負う計画を示すも、実用化の道筋が付けられていない。新興企業がビジョンを示し続けることは重要だが、技術が付いていなければ計画は口先だけのものとなってしまう。

2019年12月に開催された電動トラックの発表会で説明するニコラの創業者、トレバー・ミルトン氏(写真=ロイター/アフロ)

 まったく新しい、世界に通用する交通手段をゼロから作り上げるには、かなりの大胆さが必要になる。

 イーロン・マスク氏には間違いなくその素質がある。米電気自動車(EV)メーカー、テスラのCEO(最高経営責任者)であるマスク氏は、9月22日に開催された説明会で才覚を再び見せつけた。実現するまで何年もかかるような飛躍的な駆動力を持つバッテリーの開発推進を約束したのだから。

 トレバー・ミルトン氏にもその素養はある。いや、あったと言うべきだろうか。水素燃料で走る電動トラックを製造する新興メーカー、米ニコラ(本社アリゾナ州)の創業者であるミルトン氏は20日、ようやく会長職を辞任した。同社の技術説明について「誇大な宣伝や虚偽の説明が含まれている」などと批判した報告書が出されてから何日もたった後の出来事だった。

 同社の株価は大きく下落した。報告書を作成した米調査会社、ヒンデンブルク・リサーチには、空売りでもうけるためにあえてネガティブな内容を記載したのではという疑惑も持ち上がっている。

見栄を張るにも限界はある

 こうした「ニコラ疑惑」の全容は明らかになっていない。だがミルトン氏は、決して実証されることのなかったニコラの技術を誇大宣伝した人物として語り継がれるだろう。

 マスク氏とミルトン氏はともに、新たなエネルギー源を用いた新産業を立ち上げようとしている。輸送界の先駆者と呼ぶことはできるだろう。もっとも、経営スタイルは似ているようだが、手法はまったく異なっている。

 テスラは、電気自動車の部品から充電インフラ、販売網に至るまで、一貫して新技術を用いており、それが強みだ。一方のニコラは、すでに開発されている技術と設備を組み合わせ、出来栄えの良い既製品を作ろうとした。

 説得力のあるビジョンを伝える能力を持つことは、両社にとって非常に重要だ。しかし見栄を張るのにも限界はある。いずれぼろが出るかもしれない点は、きちんと認識しておく必要があるだろう。

 マスク氏の場合、わずかな数のスーパーカーの試作から始めたことからも分かるように、アイデアは大きく、事業は小さく始めた。