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中国の習近平国家主席が2030年までにCO2排出量を減少に転じさせ60年までに実質ゼロにする目標を掲げた。同国の排出量は25年に減少に転ずる見方が強いも、実質ゼロへは経済成長モデルの見直し自体が求められる。建設中の石炭火力発電所をどうするか、CO2の分離回収技術の実現など、課題も多く具体的な道筋は見えない。

国連総会一般討論でビデオ演説する習近平国家主席。2060年までにカーボンニュートラルを目指す目標を掲げた(写真=新華社/アフロ)

 9月22日の国連総会で、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席はビデオ演説を通じて驚きの発表を行った。中国は、2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量の増加を止めるという5年前の目標に加え、60年までに排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル(炭素中立)」を目指すというのだ。

 これは技術面のみならず、植林などを含めた自然保全面の観点からもCO2排出と削減のバランスを取ることを意味する。中国がこの目標を達成するには、他の主要経済大国が約束、または実現したよりもはるかに速いペースで排出量をピークアウトさせなければならない。とてつもなく野心的な挑戦だ。

 15年に合意された地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に基づき、署名国は今年末までに排出量削減に向けた最新計画の提出が求められている。しかし新型コロナウイルス感染症の影響により、取り組みは進んでいない。9月2日、国連気候変動枠組み条約事務局長のパトリシア・エスピノサ氏は期限内の計画提出は80カ国程度とみられると語った。習氏の国連総会演説以前、多くのアナリストは米国が11月の大統領選後に今後4年の気候変動政策を明確に示すまで、中国は手の内を見せないだろうと予測していた。

 中国はパンデミック(世界的大流行)への初期対応に対する国際的な批判に悩まされ、イメージの回復を狙って発表に踏み切ったのかもしれない。

CO2排出量は既にピークアウト

 しかしこの目標は現実的だろうか。排出量のピークアウトを30年以前に達成すると約束することは難しくないだろう。習氏が14年に最初にこの目標を宣言した(当時は「30年ごろ」との表現を使用)1年前に、すでに専門家らは、(中国の排出量が)早ければ25年にもピークに達するかもしれないと考えていた。 実際、一部の科学者は人間の活動からのCO2排出源としては最大となる、化石燃料からの排出量はすでにピークに達している可能性があると考えている。北京のシンクタンク、ブルッキングス・清華公共政策センターは、25年には中国の排出量は減少に転じるだろうとしている。そのため、習氏が国連でのスピーチで表明した30年の到達目標は迫力に欠けるものだったといえる。

 しかし60年までにカーボンニュートラルを目指すというのは別の話だ。習氏はすでに、9月14日の欧州連合(EU)首脳とのテレビ会議で、中国はこの目標に向けて努力するかもしれないと打ち出し、相手の出方を探っていた。その際、同氏は期限については明らかにはしなかったが、カーボンニュートラルを目指すと言及したことは、欧州外交筋によると「大きな政治的前進」であるという。昨年、欧州委員会は50年までに、温暖化ガスの排出量を域内全体で見て実質ゼロまで減らし、気候変動に及ぼす悪影響を取り除く「気候中立」を達成するという目標を設定した。一方、米国はこの問題については沈黙を守っている。

 習氏は演説で慎重に言葉を選んでいた。「気候中立」ではなく、「炭素中立」を60年までに達成するという。この言葉の違いは、目標がCO2の排出のみに適用され、メタンなどの地球温暖化に大きな影響のある他の温室効果ガスには適用されないことを意味する。EUが目標とする「気候中立」の場合は、すべての排出量が網羅されている。

日経ビジネス2020年10月5日号 84~85ページより目次