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中国政府は貧困撲滅を目標に掲げてきた。具体策の一つが、へき地に暮らす貧しい住民に、街での新居と職を与える取り組みだ。この背後には、習近平国家主席と共産党への感謝を強いる思想教育が垣間見える。

山岳地帯に暮らすイ族の人々(写真=ZUMAPRESS/アフロ)

 中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は、2020年末までに極度の貧困を一掃するとの目標を掲げる。これを実現すべく、役人たちは、ジジ・アリモさんに様々な支援を与えてきた。

*=原文のまま訳した

 ジジさんは47歳。夫を亡くしたのち、1人で4人の子供を育てている。脱貧困政策の一環で、ジジさんは四川省南西部に位置する越西県に新築のアパートを与えられた。筆者らは9月上旬、そこで彼女に会った。

 ジジさんの暮らしぶりを説明するのに、経済指標がよりどころとなる。山岳部に住んでいたジジさんは当局に貧困層と見なされていた。地域によって多少異なるものの、年間所得が2300元(約3万5000円)に満たない人々が貧困層と見なされる。貧困層は今年年初の時点で約500万人いた。習近平国家主席が公約を果たすためには、彼ら・彼女らの生活水準を引き上げる必要があった。

 四川省当局は、ジジさんの転居費用の大部分を負担した。またジジさんを団地の清掃員として雇用し、月額550元(約8500円)の給与を支払っている。

新居は習近平氏のおかげ

 貧困の軽減は、単に数字の問題ではない。習近平国家主席の統治下にある中国では、他の問題と同様、この問題も極めて政治的な問題となっている。

 ジジさんの部屋は、貧困への取り組みをアピールすべく、国内外のジャーナリスト向けに中国政府が設定したツアーに組み込まれている。このツアーは、ジャーナリストが独立した立場から政府の主張を検証するためのものではない。また、貧困層として登録しようとする人々を、目標の「達成」を焦る一部の役人が妨害しているとする報告書を検証するためのものでもない。

 ジジさんの取材には当局者が立ち会う。団体から離れようとするそぶりを見せた記者は、ツアーの間中、担当者に監視された。

 ジジさんはきゃしゃな体つきで、帽子をかぶりチェック柄のオーバーコートを着て、ジャーナリストを迎えた。

日経ビジネス2020年9月28日号 100~101ページより目次