全3819文字

石油から再生可能エネルギーへ、エネルギーシステムの軸がシフトしつつある。石油を軸とするシステムは環境を汚染し、政治を不安定にし、経済に大きなショックを与えてきた。再生可能エネルギーを軸とするシステムはこれらの負の面を緩和しそうだが、その過程では混乱が予想される。

中東産の石油がこれまでのエネルギーシステムを支えてきた(写真=ロイター/アフロ)

 石油が20世紀を形作った。車、戦争、経済。そして地政学を左右したのも石油だった。しかし世界は今エネルギーショックの真っただ中にあり、それが新たな秩序へのシフトを加速している。

 新型コロナウイルスの感染が年初来、拡大し、世界経済は大きな打撃を受けた。石油の需要は5分の1以上落ち込み、価格は暴落した。それ以降、経済の回復は一進一退を繰り返すが、かつての世界に戻る可能性は小さい。

 化石燃料の生産者はそれぞれの脆弱性に直面せざるを得ない状況だ。米エクソンモービルは、ダウ工業株30種平均から除外された。同社株は1928年から、この指標に指定され続けてきた。サウジアラビアなどの産油国が財政の赤字を避けるには、石油価格が1バレル70~80ドル(約7300~8400円)である必要がある。だが現在の石油価格は40ドル(約4200円)程度で、サウジの財政はかつかつの状態にある。

 これまでも石油価格が低迷することはあったが、今回の低迷は根本的に質が異なる。一般の人々や政府、投資家が気候変動の脅威に目覚め、クリーンエネルギー産業が勢いを増している。資本市場も変化した。クリーンエネルギー関連株は今年45%値上がりした。

 金利がゼロ近辺で推移するなか、政治家はグリーンインフラの建設計画を後押しする。米民主党のジョー・バイデン大統領候補は米経済の脱炭素化を推進すべく2兆ドル(約210兆円)を投じる考えだ。

 欧州連合(EU)は新型コロナ危機からの復興対策に充てる8800億ドル(約92兆円)の予算の3割を、気候変動対策に振り向けると決めた。ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長は一般教書演説で、向こう10年のうちに域内の温暖化ガスの排出量を1990年比で55%減らす意向を表明した。

石油を軸とする不安定な社会

 21世紀のエネルギーシステムは石油時代より良いものになる見込みがある。健康にやさしく、政治を安定させ、経済の激変を減らす。だが新システムへの移行は大きなリスクを伴う。仮に移行が無秩序なものとなれば、産油国の政治・経済が安定を失いかねない。グリーンエネルギーを支えるサプライチェーンの支配権を中国が一手に握る恐れもある。さらに危険なのは、システムの移行が大きく遅延することだ。

日経ビジネス2020年9月28日号 98~99ページより目次