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黄河流域に位置する双槐樹遺跡には中国高官が足しげく訪れる。約5000年前に文明が存在した証しとされる。この文明を継承する取り組みは、共産党による統治の正統性を示す役割の一端を担う。中国において、歴史と政治は不可分な関係にある。

シルクロードの玄関口と呼ばれる街を訪れた習近平国家主席(写真=新華社/アフロ)

 中国の考古学界は人々の関係が緊密だ。ある発掘調査がどれほど重要なのか、現場で作業する人の中にジョウ・ミインシアン氏の姿があるかどうかを見れば判断できる。

 真っ黒に日焼けし、ぼさぼさの髪をしたこの現場技術者は、中国全土で様々な発掘調査に携わってきた。「ジョウ老師」として尊敬を集める彼は、これ以上ないほど柔らかな手つきで埋蔵品を掘り出すことで定評がある。

 農家の子に生まれた同氏は、小さなスコップや柔らかなブラシなど、簡素な道具を使いこなす才能に恵まれた「中国有数の」職人だ。ジョウ氏の現在の上司で、双槐樹遺跡の発掘調査で責任者を務めるワン・シュイー氏によれば、他の者なら壊してしまうような埋蔵品を、ジョウ氏はこれらの道具を使って丁寧に掘り起こすという。双槐樹遺跡は河南省を流れる黄河南岸の高台にある新石器時代の集落である。

 ジョウ氏が、こちこちに固まった土を村人たちが掘り起こす作業を静かに見守っていることだけが、この遺跡が政府高官たちの関心を集めている唯一の理由ではない。2013年に発掘が始まって以降、この遺跡の発掘に投入される資金が大幅に増加しているのも理由の一つだ。発掘現場はほぼ全体が頑丈な屋根で覆われている。丸天井の建物から成る生活区域は丘の中腹に建てられ、真夏の太陽の下でも涼しく、厳寒の冬場も快適に過ごせるよう工夫が施されている。

トランプ氏と習氏の歴史談義

 双槐樹遺跡で一定の期間を過ごすことは、中国で最も権威のある北京大学の最も優秀な学生にとってもこの上ない名誉である。そして中国の要人が毎週のように同遺跡を視察に訪れる。

 双槐樹遺跡が人々を引き付けるのはそこが美しい場所だからではない。5300年前にこの集落で生まれた文明は極めて簡素で、素晴らしい青銅器も碑文も残していない。これまでのところ、唯一最大の貴重な発見は家蚕の彫刻だ。イノシシの牙を彫って作られたもので、指の長さほどの大きさである。

 また、風景が素晴らしいわけでもない。高速道路と2つの発電所に挟まれた低木の茂る高台では、トンボが飛び交い、コオロギが耳をつんざくほどの音量で鳴いているだけだ。

 双槐樹遺跡が持つ重要性は実は歴史的すなわち政治的なものだ。中国において考古学は1920年代に誕生して以降、「中国は連綿と続く地球最古の文明を誇る」との主張と切っても切れない関係にある。

 中国文明のありようを巡って、ドナルド・トランプ米大統領と習近平(シー・ジンピン)国家主席との間で静かなさや当て合戦が起きた。同大統領が2017年に中国を公式訪問した時のことだ。北京の紫禁城を散策しつつ、トランプ大統領が思い切って次のように切り出した。「中国は5000年の歴史を誇ると聞いているが、エジプトの歴史は8000年前に遡る」。習近平国家主席は次のように反論した。