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米大統領選で劣勢にあるトランプ陣営はリベラルと保守の対立をあおることで再選のきっかけをつかもうとしている。米連邦職員を大都市に派遣する超法規的な手段で抗議デモの過激化を演出しようとするが、うまくいっていない。しかし、大統領選の結果ですら信じようとしない同氏なだけに、今後どんな手段に出るかは注意する必要がある。

オレゴン州ポートランドに派遣された連邦職員には、州知事や警察からも抗議の声が上がった(写真=AFP/アフロ)

 街中を走るごく普通の車両から突如、記章を付けない迷彩服を着た男たちが飛び出し、人々を連行して闇夜に消えていく──。ウクライナ分離派を押さえ付けるこの武装勢力は「リトル・グリーンメン」と呼ばれた。彼らは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が反乱軍やゲリラ、テロなどといった非合法なやり方をも駆使して目的を達成しようとする際に手先となる部隊であるといわれている。この武装勢力が誰の支配下にあるかは誰もが知っている。しかし、それを立証することは難しい。

 米オレゴン州の最大都市ポートランドは、このリトル・グリーンメンが暗躍したクリミア半島でも、ウクライナ東部地域でもない。しかしここにも正体不明の武装した米連邦職員が送り込まれた。ドナルド・トランプ米大統領はプーチン氏と同様の作戦を米国の都市で繰り広げようとしている。

 ロシアの国営メディアはウクライナ東部のドンバスでロシア系住民が虐殺されたと報じた。対してトランプ氏は黒人暴行死に対する抗議デモが行われている都市は「アフガニスタンよりもはるかにひどい惨状」にあり、凶悪犯、殺人者、暴力的な無政府主義者が虐殺行為を繰り広げていると主張する。

保守とリベラルの対立を演出

 こうした手法こそ、トランプ氏の大統領選再選キャンペーンの核心だ。景気が後退局面に入り、新型コロナウイルスが大統領選のある11月までに収束しそうもない中で、トランプ氏は勝利の望みを保守とリベラルの価値観が衝突する「文化戦争」に懸けている。つまりは、米国地方部の住民が都市部の住民に対して反感を持つよう、扇動しているのである。

 大都市超高層ビル建設のパイオニアだった大統領が、都市に非難の矛先を向けようとしている。米国ではどの大都市も多様な人種が入り交じり、リベラルな価値観を持つ傾向が強い。米10大都市のうち共和党が市長であるのはカリフォルニア州サンディエゴだけだ。

 ポートランドの抗議デモ参加者が不当に逮捕された事件に関与していたのは、普段は麻薬密輸組織の国境侵犯を取り締まる国土安全保障省傘下の国境警備隊だった。国境から遠く離れたポートランドのデモの制圧に投入された彼らが米国とメキシコの国境に位置するサンディエゴにやってくる可能性は低いだろう。トランプ氏は、次に同部隊が「集中投下」されるのはシカゴだと発言している。ニューメキシコ州アルバカーキへの派遣も遠くないという。

 問題は、トランプ氏の超法規的な戦術が効果を持つかどうかだ。現実を見る限りあまり期待はできない。

 武装した米連邦職員を都会の「戦場」に送り込む表向きの理由は連邦政府の財産保護となっている。だがより大きな狙いは、過激な世俗主義者が米国の文化を冒涜(ぼうとく)し、犯罪を広めているとアピールすることにある。そして、彼らが支持するのは民主党の大統領候補指名としての地位を固めたジョー・バイデン前副大統領であると印象付けることだ。このキャンペーンを成功させるために、トランプ氏は次の3つの条件を満たす必要がある。