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中国バイトダンスが提供するTikTokは、初めて世界を席巻した中国生まれのアプリと言っても過言ではない。だが同社と中国政府の関係を懸念する米国政府はこのアプリの禁止を示唆し、インドではすでに禁止された。バイトダンスは対策としてロンドンに国際本社を置く分社化を計画するが、トランプ政権は米国企業化をもくろむ。

米国政府は、TikTokの全面利用禁止を示唆している(写真=ロイター/アフロ)

 中国のバイトダンスは現在、世界で最も価値あるスタートアップだ。今年5月には、ほかのIT系ユニコーンを大きく引き離す形で、セカンダリー(流通市場)における推定評価額が1400億ドル(約15兆円)に達した。3月からさらに50%近く上昇したことになる。その理由は同社の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」にある。

 TikTokは世界でこれまで20億回ダウンロードされている。利用者が投稿する陽気な動画のおかげでTikTokは「最後に残されたネット上の陽だまり(楽しい場所)」として知られている。

 TikTokは初めて世界を席巻した中国生まれのアプリでもある。バイトダンスの創業者、張一鳴氏(37歳)から見れば、TikTokはバイトダンスが世界的な巨大ソフトウエア企業となる野望の一翼を担う存在だ。

 しかし今、その野望に危機が迫っている。6月29日にインド政府が、TikTokを含め59の中国製アプリの使用を禁止した。背景にはカシミール地方の国境係争地帯で戦死者まで出した印中間の軍事衝突がある。

 また、同じ6月、バイトダンスの米国人弁護士らが同社に対し、TikTokを中国企業が所有していることについて米トランプ政権が危惧を抱いていると警告した。米国はこのアプリを全面的に禁止する可能性を示唆している。

 トランプ政権は、TikTokの人気が高まるにつれ懸念を強めてきた。現在、米国における利用者は推定7000万人。これは米国の画像・動画共有アプリ「スナップチャット」に並ぶ規模だ。

 米調査会社センサータワーによると、2020年1~3月期にTikTokは世界で3億1500万回ダウンロードされ、3カ月間のダウンロード数としては過去最高を更新するアプリとなった。米国と英国では動画投稿サイトの「ユーチューブ」と同じくらいの人気だ。最初にTikTokに飛びついたのはティーンエージャーだけではない。「TikTokは今や万人向けだ」と、TikTokの米国ゼネラルマネジャー、バネッサ・パパス氏は言う。

 バイトダンスは業績を公表していないが、同社の投資家によれば19年に150億~200億ドル(約1兆6000億~2兆1000億円)だった売上高は、20年には300億ドル(約3兆2000億円)に達しそうだという。純利益は70億ドル(約7400億円)へと倍増するだろう。利益の大半は中国国内版TikTokとも言える「抖音(ドウイン)」とニュースアプリの「今日頭条(トウディアオ)」から出ている。

 TikTokはまだ利益を出せる段階にはないが、バイトダンスはこのアプリがいずれ米国の巨大な広告市場を足がかりに、中国国内の全事業を合わせた売上高をはるかに超える収益を生むようになると考えている。同社はすでに広告主向けにさまざまな出稿ツールの提供を行っている。

 主な資金の出し手である米国のベンチャー投資家は、米国での広告売り上げと中国国内での成長により、バイトダンスの企業価値は5000億ドル(約53兆円)まで上がるだろうと考える。

中国企業への介入を懸念

 TikTokの利用者から見れば、米国政府がハリネズミの赤ちゃんを撮影した動画を禁止するというのは、いわばおじいちゃんがシャッフルダンスを覚えようとするくらいばかげた話である。

 政府関係者が懸念している点は2つある。