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前大統領補佐官によるトランプ政権の内部を描いた暴露本で、トランプ氏の対中政策の問題点があらわとなった。彼の対中交渉のスタンスは自身の大統領再選に有利に働くか否かで、国益をまったく考えていなかったのだ。こうした姿勢は中国を利する状況を生むだけでなく、バイデン民主党候補の支持率を高める結果につながっている。

米国の国家安全保障を担当していたボルトン前大統領補佐官の暴露本で、政権内部の真実が明らかとなった(写真=AFP/アフロ)

 ドナルド・トランプ米大統領は6月下旬、2つの州で開催した選挙集会で、中国共産党をこきおろした。新型コロナウイルスを中国武術カンフー(kung fu)とインフルエンザ(flu)を合わせた「カンフル」と呼び、3度もこの言葉を使った。トランプ氏は3月にも「中国ウイルス」という言葉を使ったが、今回はこうした表現がさらにエスカレートした(「中国ウイルス」自体も十分衝撃的なものだったが)。

 トランプ氏が大いに盛り立てたこともあってか(彼は「新型コロナは間違いなく、歴史上のどの病気よりも多くの呼び名を持つ」と前置きした)、マスクもせずに選挙集会に集まった大勢の参加者はこの呼び名に拍手喝采した。だが大多数の人々はすでに、トランプ氏の中国に対する強硬な態度は言われるほど本物ではないことに気づいている。

 ジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)によるトランプ政権の暴露本、『The Room Where It Happened(それが起きた部屋)』が評価できるのは、詳細な事実を駆使して淡々と、政権内部に起こった亀裂を詳細に描いた点にある。

 「利己的な主張を強める中国を抑え込む」というトランプ氏の発言は、これまでの政権でも時折主張されていた内容だが、極めてタイムリーなものだったとボルトン氏は語る。中国に対し強硬姿勢で臨むことは、かねてから党派を超えた米政府全体の願いである。大統領の発言はこれを改めて言い表したに過ぎない。だがトランプ氏の言動は最初から懐疑的かつ矛盾に満ちていて、自滅行為につながっていた。

習近平を称賛するトランプ

 スティーブ・ムニューシン財務長官らの「パンダハガー(親中派)」と、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表やナバロ大統領補佐官(通商問題担当)らの「ドラゴンスレイヤー(対中強硬派)」が日々競い合っていた点も、政権運営が終始混乱する要因となった。

 だがボルトン氏に言わせれば、最大の問題は大統領であるトランプ氏にあるという。彼は対中交渉を成功に導くための情熱をほとんど見せたこともなければ、自分に都合のよい経済政策ばかり出し続ける中国に向き合う忍耐力も持ち合わせていなかった。独裁主義的姿勢を強める習近平(シー・ジンピン)国家主席に対抗することにも、関心を持っていなかった。それどころか、むしろ称賛さえしていた。

 トランプ氏は、習氏が新疆ウイグル自治区に強制収容施設を建設し、何百万人ものイスラム教徒少数民族ウイグル族を閉じ込めることは「まったく正しいことだ」と発言したのは一度きりではない。トランプ氏の唯一の関心事は、どんなに中身のない内容だったとしても、自身の支持層にアピールできる貿易交渉を妥結することだったと、ボルトン氏は言う。やがてこうしたスタンスが対中交渉の既定路線となったと彼は著書で明かしている。

 「大統領は習氏に選挙で自分が確実に勝てるよう協力してほしいと懇願した。