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新型コロナウイルスの感染拡大で米経済が深手を負った。トランプ大統領の再選に暗雲が垂れ込める。海外メディアはバイデン氏の勝利を想定し始めている。英エコノミストが、トランプ氏とバイデン氏を中国の視点に立って比較する記事を掲載した。

直近の世論調査ではバイデン氏(左)への支持がトランプ氏への支持を上回る(写真=AP/アフロ)

 中国が選ぶとしたら、次期米大統領に誰を選ぶだろう。これは答えるのが難しい質問だ。希望にあふれた回答はない。北京の指導層が発言するとき、それがドナルド・トランプ米大統領についてであれ、対抗馬のジョー・バイデン氏についてであれ、不信と侮りが伴う。珍しいことに、両大統領候補はどちらも中国では知られた存在で、習近平(シー・ジンピン)国家主席と多くの時間を過ごしている。

 オバマ政権で副大統領を務めたバイデン氏はその1期目、習氏のカウンターパートを務めた。習氏も当時、政権ナンバー2の国家副主席の地位にあり、次に最高指導者となることが確実視されていた。2011年に中国を訪問したバイデン氏は、習氏と中国各地で会談を重ね、相互尊重を確認したと強調した。

 一方、トランプ氏はさらに踏み込んで、習氏を「とても良い友人」と呼んだ。だが、この言葉にだまされた人は北京にはまずいない。

 トランプ氏もバイデン氏も、交渉を結実させようと言葉巧みにあれこれ言うことに長けている。しかし、習氏は冷徹で、安全保障最優先の世界観を持っており、外国首脳との友情を育む余地などない。口だけの米国首脳となら、なおのことだ。

トランプ氏の関心を見切る

 中国人が2人の大統領候補を見下すのには、政治的な側面と私的な側面がある。

 豊富な人脈を持つ中国人は、人に知られていない別荘、レストランの個室、研究者が利用する保養所などの場がお気に召せば、時に外国人に対して意見を述べる。そのトランプ評は、無知で一貫性がなく、うんざりする人物だが、まったく「使えない」わけではないというものだ。

 イデオロギーにまったく無関心な姿勢は称賛される。新疆ウイグル自治区などで行われる弾圧を非難することに乗り気でない点は好感されている。中国軍の高官の考え方に精通している人は、トランプ氏が海外での「軍事的冒険」を嫌う点を肯定的に評価する。

 中国の指導者たちは当初、トランプ氏を以前にもいたタイプの現実主義的な「大物」だと誤解していた。今では、再選をはじめとする自己の利益にしか関心のないナルシストだと見ている。こうした冷笑的な見方は、同氏が始めた対中貿易戦争に対する中国の反応に表れている。

 米議会の議員たちはこの貿易戦争を、用心しつつも超党派で支持している。ビジネス界の意向を受けた一部のロビー団体も同様だ。多くの米国人事業家は、トランプ氏が進める戦術が抱える不安を直視していない。彼らはトランプ氏が中国に圧力をかけるのを好ましく思っている。中国は、外国企業を犠牲にして自国の企業を優遇する不公正な市場ルールと産業政策を進めてきた。

 しかし中国政府当局者は、トランプ氏の関心は中国に政策転換を強いること以上に中国マネーにあると見抜いた。それゆえ彼らは、貿易交渉をめぐる「第1段階の合意」に署名し、米国製品の輸入拡大を受け入れた。

 中国はそれ以来、米中両政府が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応などをめぐって激しい舌戦を展開している間も合意を維持し、国営企業が大豆などを大量に輸入してきた。また、香港での反体制活動を禁じる「香港国家安全法」の制定をめぐってトランプ政権が中国に制裁を科すと表明した後も中国は、米国企業を「信頼性を欠く組織」に指定して懲罰を加えるとの脅しを実行に移していない。

日経ビジネス2020年6月22日号 78~79ページより目次