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全米で起こる抗議デモを制圧するために連邦軍を出動させようとするなど、トランプ大統領の「暴走」ぶりが目立つ。ホワイトハウス周辺に警備隊を配置するなど、過激なデモ隊のせいで米国が危機にある印象を与えようとしている。こうした行為はコロナ対策や景気後退の問題に対処できない大統領への批判をかわすためだと筆者は見ている。

トランプ大統領は6月1日、ホワイトハウスから徒歩で教会を訪れ、報道陣の前で聖書を手にして記念撮影した。周辺のデモ隊は事前に排除された(写真=ユニフォトプレス)

 米作家、シンクレア・ルイスが、欧州をファシズムが席巻した1930年代の米国を描いた「It Can't Happen Here(ここでは起こりえない)」という小説がある。この題名通り、ファシズムは米国に達することはなかった。きっとこれからもないだろう。

 だが、戒厳令で都市をほぼ軍の支配下に置くことはありそうだ。この数日間、首都ワシントンでは、低空飛行のヘリコプターや灰色の軍用車両ハンビーが行き交い、夜間外出禁止令が敷かれ、軍服姿の兵士たちが軍の統制を利かせている。

国防総省はトランプにくみせず

 こうした光景が香港で繰り広げられていたのであれば、ワシントンのシンクタンクはこぞって「緊急ウェビナー」を開催し、現状分析を行っただろう。

 しかし人々は見たこともないワシントンの現状にぼうぜんとし、こうした事態が持つリスクを評価することさえできずにいる。ドナルド・トランプ氏が11月の米大統領選で再選される可能性はそれほど高くはない。それがこの危機を引き起こす原因になっている。

 良いニュースがなかったわけではない。米国防総省は、「軍は政治に干渉しない」という、合衆国憲法制定以来、233年にわたる慣例を破る気はないと意思表示したからだ。