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北朝鮮経済が難局に直面している。新型コロナウイルス感染拡大を防ぐべく中朝国境を封鎖したのが輪をかけた。コメや石油の価格が急騰した。北朝鮮政府は国債を発行し、財政を賄う方針。これまでの経緯を鑑みると、事実上の財産没収とみられる。

2013年の新年の辞で「経済強国の建設」を唱えた(写真=KCNA/新華社/アフロ)

 北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)委員長が5月23日、3週間ぶりに公の場に姿を現し、朝鮮労働党中央軍事委員会に出席した。同委員長が3週間も行方知れずとなるのは、この3カ月間で2度目のことである。

 同委員会で、経済問題は議題に上らなかった。北朝鮮の国営メディア、朝鮮中央通信(KCNA)によれば、金委員長は数人の軍人を昇進させる人事を実行するとともに、核抑止力を強化する計画を発表したという。米国の国家安全保障の専門家は、金委員長が北朝鮮経済を「偉大」にしたいと考えているなら、これはまさに避けるべき種類の行動だと話す。

 北朝鮮の経済はここ数カ月、通常よりさらに偉大ならざる状態に見える。金委員長は今年1月、新型コロナウイルスの感染拡大を阻止すべく、世界との交流を遮断すると決断した(北朝鮮は感染者がゼロとの主張をいまだに繰り返している)。このことは、中国との国境も封鎖していることを意味する。中国はほぼ唯一の貿易相手国だ。

 北朝鮮自らが踏み切った国境封鎖により、一般の人々の暮らしは深刻な打撃を受けている。のみならず、首都・平壌の特権階級にも大きな影響を及ぼしている様子がうかがえる。問題に拍車をかけているとみられるのが、政府による国債発行だ。政府は国債を国民に強制的に購入させることで、コロナ禍が国家財政にもたらす影響を軽減しようとしている。北朝鮮が好むチュチェ(主体)思想は限界に達したようだ。

制裁が中朝貿易を直撃

 パンデミック(世界的大流行)に襲われる前から、直近に科された経済制裁のため中国との貿易額が減少していた。中国の税関統計によれば、2016年1~2月に3億5000万ドル弱だった北朝鮮向け輸出額は、19年1~2月には2億5000万ドル弱に減少。同じ期間に北朝鮮からの輸入額は3億5000万ドルから5000万ドル弱に落ち込んだ。

 もちろん、これらのデータだけで北朝鮮経済の全体像がつかめるわけではない。例えば、パイプラインを通じて中国からもたらされる原油はこの統計に含まれていない。北朝鮮の一般の人々が関わる密輸や、公海上での石油の瀬取り(公海上で船を横付けして積み荷を移し替える行為)など政府が行っている違法な貿易活動もこの統計の外にある。

 それでも、制裁は経済に打撃をもたらしたと思われる。金委員長は20年の年明けに、厳しい日々が今後待ち受けている、なお一層の自力更生が求められるとして、国民に警鐘を鳴らした。こうした姿勢は、金委員長が就任以来一貫して国民に約束してきた「成長と繁栄」から決別することを意味する。

日経ビジネス2020年6月8日号 70~71ページより目次