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中国は2008年の金融危機を、インフラ建設に力点を置く景気刺激策で乗り切った。だがその結果、無駄な住宅や金融システムの不安定化といった負の遺産に今も苦しむ。新型コロナ危機からの回復を目指すには、低炭素技術など新たな投資ビジョンが必要だ。

アディール・ターナー卿
米マッキンゼー・アンド・カンパニーや英スタンダードチャータード銀行取締役などを経て、2008年から13年まで英金融サービス機構(FSA)長官。現在は投資家ジョージ・ソロス氏が設立した新経済思考研究所のシニアフェロー。
中国・寧波の建設現場。中国は再び不動産投資に頼るのか(写真=上:Bloomberg/Getty Images)

 2008年に国際金融危機が勃発した時、中国では輸出が激減し、大量の失業が発生しそうになった。中国政府は対策として、世界史上空前の規模の建設ブームを起こした。11~13年の3年間に中国が使用したセメントの量は、米国が20世紀全体を通じて使った総量を上回った。

 この3年で中国の総投資額はGDP(国内総生産)の43%から48%に上昇。債務のGDP比も08年の140%から、13年には200%超、17年には250%に増加した。地方政府や国有重工業企業、不動産開発業者に対して銀行が無制限に貸し付けを行ったためだ。

 建設業界における雇用は3900万人から5300万人へと拡大。都市部の被雇用者の総数は年に1200万人のペースで増え続けた。地方から都市に流入する人々を吸収するには、それだけの規模が必要だったのだ。09年の経済成長率は9.2%と、08年の9.6%からごくわずか減速するにとどまった。

 中国は現在も同様の経済的課題に直面している。中国は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の脅威を欧米諸国よりもうまく封じ込めた。この点はアジアのほかの国々と同様だ。工場はほぼすべて操業を再開した。4月の輸出統計はアジアの近隣諸国との貿易が回復してきたことを示している。

 しかし、欧米の先進国ではいまだロックダウンが完全には解除されず、回復に時間がかかることが予想される。これは中国の経済成長にとって強い逆風となる。となれば、建設主導の景気刺激策が再び魅力的な選択肢となってくる。

 だが、08年の危機後の建設ブームは3つの悪影響を後に残した。

日経ビジネス2020年6月1日号 88~89ページより目次