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新型コロナウイルスの感染拡大をめぐって、米国と中国が亀裂を深めている。こうした状況を中国の対欧米協調派はどのように見ているのか。金融・経済政策の専門家、余永定氏の論考を紹介する。

余 永定(Yu Yongding)氏
中国社会科学院世界経済政治研究所の元所長。中国人民銀行の元金融政策委員であり、同国の主要エコノミストの一人。マクロ経済や世界金融に関する論文や著書を多数発表している。
中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席(左)と米国のトランプ大統領。新型コロナウイルスの感染源をめぐって、米中が鋭い火花を散らしている。トランプ氏は「中国との関係を遮断することもできる」とまで発言した(写真=AFP/アフロ)

 米ハーバード大学でケネディスクールの初代学長を務めたグレアム・アリソン教授はかつて、こう警告した。「古代ギリシャ世界で100年にわたり覇権を誇ったスパルタ、あるいは今日の米国が持つ強国の地位を、都市国家アテナイ(アテネ)、あるいは今日の中国のような新興勢力が脅かす時、まずは警報が鳴り響くはずである」

 今日、この警報音が大きすぎて、米国も中国も、アリソン氏が「トゥキディデスの罠(わな)」と呼んだ、両国が衝突に至る状況を回避する方法が見えなくなっている。

 今後の展開として3つの道が考えられる。第1は袋小路。第2は破局に至る道。第3は世界に回復をもたらすかもしれない道である。

 最初の道は、英国の歴史学者ニーアル・ファーガソン氏が「チャイメリカ」と呼んだモデルに向かう。米中両国の経済が融合する姿を思い描く。国際的バリューチェーンを通じて深く統合された21世紀の経済の現実を踏まえた見方だ。

 しかし、経済の不均衡が広がった今、チャイメリカ・モデルはもはや通用しないだろう。特に米国で反グローバル化、反中国の動きが広まっているため、米中統合が深化するプロセスが復活する可能性はますます縮小している。それどころか、広範な「デカップリング(分断)」が進行中だ。

 第2の道では、敵対関係が深まる。米中両国が互いに相手の弱体化を図る。相手国が難局に陥っているのを黙って見ているという消極策もあり得る。あるいは一方または両方の国が、相手国に対する反感を国内で積極的にあおったり、直接的な妨害工作に出たりすることさえ考えられる。

 言うまでもなく、この道は反道徳的であるばかりでなく、危険を招きかねない。責任ある政治家なら、徹底的な破滅に我先にと向かうようなこの道を選ぶべきではない。

日経ビジネス2020年5月25日号 78~79ページより目次