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米国は新型コロナ対策として企業の救済を進める。これは米国が掲げる自由市場原理に反すると言える。危機の規模に鑑みて救済は当然の策だが、長引けば財政負担が膨らむ。創造的破壊も抑制される。社会に強力なセーフティーネットを構築すれば企業救済は必要ない。だが米国にはそれもできない。

(イラスト=Shonagh Rae)

 米国政府が3月に、いわゆる「給与保護プログラム(PPP)」を発表した時、米ニューヨーク大学のビジネス・スクールでマーケティング学を教えるスコット・ギャロウェイ氏は、ある計算をしてみた。すると、同氏は約25万ドル(約2700万円)の給付を請求できることが分かった。

 これはギャロウェイ氏が最近、プロフGという小さな会社を立ち上げていたためだ。大学の授業のような講座をオンラインで提供する会社だ。PPPは企業に、従業員の給与などの費用を賄うための資金を融通する。この融資は、従業員を雇用し続けていれば返済が免除される。

 だがギャロウェイ氏は申請をしないことにした。なぜなら同氏は、自由市場の筋金入りの信奉者だからだ。経済学者のヨーゼフ・シュンペーターが唱えた「創造的破壊」の考えを信じている。立ち行かなくなった企業は倒産すべきで、それにより健全な新興企業の発展が可能になるという考えである。

 それゆえ、ギャロウェイ氏は救済資金を受け取らないことにしたわけだ。同氏は筆者に「何か理屈をつけてお金を受け取るのは簡単だろう。ヘリコプターからお金が落ちてきたら拾おうとするものだ」と語った。「しかし、もし救済資金なしで(プロフGの事業を)運営することができないとしたら、たとえパンデミック中とはいえ、我々には事業に手を染める資格はない」

救済策はリスクを伴う

 これは異端の考えだろうか。恐らくそうだろう。ギャロウェイ氏は、ほかの大半の小規模な企業の企業主よりも、こうした姿勢を取りやすい立場にあると認める。プロフGには潤沢な資金を持つ支援者がいる上、新型コロナウイルスの感染が終息した後の世界で伸びるであろう遠隔教育分野で事業を展開しているからだ。

 しかし、同氏の姿勢は、米国が現在直面する、より大きな問題を浮かび上がらせる。PPPのような政府の支援策は、自由市場と資本主義を標榜する米国の主張と相いれないのではないか、という問題だ。国によるこうした支援は歓迎すべきなのか、それとも避けるべきなのだろうか。

 個人的には迷うところだ。読者の多くも同じではないだろうか。新型コロナウイルスの感染が急速に拡大した当初は、状況があまりに衝撃的だったため、政府による介入をさほど抵抗なく納得できた。米連邦準備理事会(FRB)は(各国中央銀行も)金融市場が流動性を失わないよう異例の対策を講じた。英国や米国の財務省は、企業が当面の衝撃を乗り切るための支援を提供した。これらは称賛すべき対応と思われた。

日経ビジネス2020年5月25日号 76~77ページより目次