全4096文字

新型コロナ危機で失業者が急増しているのはどの国も同じだが、中国の失業給付の少なさが際立つ。かつてイデオロギー的に失業というものを認めていなかったこともあり、社会の安全網が不十分なのだ。都市に働きに出てきていた労働者は、最終的に出身地の農村に頼るしかないのが実情となっている。

中国・青島で求人広告に目を通す失業者たち。中国ではコロナ禍で職を失い、故郷に帰る労働者が増えている(写真=ユニフォトプレス)

 中国と米国、どちらが国民に厳しく自助努力を求める国で、どちらが政府からの補助金に頼れる国だろうか。新型コロナウイルス危機の中で見えた低所得層への支援から見るに、その答えは意外なものだ。

 米国は国民に対する失業給付額を劇的に増やした。連邦の経済対策として失業者1人当たり週600ドル(約6万4000円)上乗せしたのだ。平均すれば失った所得を100%埋め合わせられるだけの額である。一方、中国政府は生活困窮者向けの給付を1週間当たり12元(約180円)増やしたところだ。1日当たりに換算するとおわん1杯分の麺が食べられる金額でしかない。

 中国の貧困層はそれでも何とかやりくりするしか方法がない。新型コロナの発生地である湖北省に住むレイ・ヤンクンさんはこの3カ月、苦しい生活を強いられている。働いていた電子機器工場には戻れなくなったため、山に入ってタケノコ掘りをしながら貯金を取り崩している状態だ。

 白髪交じりの建設労働者、リー・チュワンユーさんは職探しに上海にやって来た。しかし成果のないまま3週間が過ぎてしまう。結局衣類を入れた大きなプラスチックのバケツを抱え、列車に16時間揺られて故郷に帰った。今後はここで、不況が過ぎ去るのを待つという。

 安徽省で運転手をしているミャオ・ウェンジャンさんは、収入減に伴い、家族でケンタッキー・フライドチキンを食べるという週に1度のぜいたくをやめた。

立派なインフラ設備とのギャップ

 新型コロナウイルス感染症がもたらした経済的な痛みは、中国のみならず他の多くの国も経験している。だが、中国が特異なのは、世界最長の高速鉄道網に代表される国際水準のインフラ設備を持ちながら、社会のセーフティーネットがあまりにも脆弱であることだ。中国の社会保障制度は、中国よりもはるかに貧しい国々の水準に近い。

 アナリストたちがしばしば指摘する問題だが、中国政府が発表する失業率(現在は5.9%で昨年より微増)はフルタイム雇用の都市住民だけを対象としているため、こうした貧しい人々が置かれている境遇を正確に捉えていない。

 金融大手、スイスのUBSと仏ソシエテ・ジェネラルのエコノミストによると、3月中に失業した中国の労働者は大きく見積もれば8000万人にも上るという。都市労働人口の20%に近い。

 しかし、それ以上に目に付くのは、失業者の中で政府から何らかの支援を受けている人数の少なさだ。中国の人力資源・社会保障省によると、失業手当の受給者は230万人にすぎない。見方を変えれば、何の給付も受けていない失業者が7800万人ほどいるということになる。

 失業保険の受給申請をするには、雇用されていた会社と労働契約を結ばなければならない上、かつその会社が所定の納付金と税金をすべて支払っていることが前提となる。政府の資料によると、この条件をクリアし、失業保険を申請できる労働者の数は、8億人に上る中国の総労働人口の約4分の1にすぎない。残りはほぼ、正規の労働契約を結ばずに民間の中小企業で働いていたり、家族が経営する農場で雇われていたりする労働者だ。

 また、幸運にも失業手当を得られたとしても、その給付額はすずめの涙だ。最低賃金自体、非常に少額であるのにもかかわらず、この失業手当の給付水準は最低賃金よりも低く設定されている。失業保険の給付条件に該当しない場合は、「低保」と呼ばれる最低保障所得を申請できる。だがその額は失業保険よりもさらに少なく、平均で月に600元(約9000円)ほどだ。

日経ビジネス2020年5月18日号 78~80ページより目次