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新型コロナ危機は、感染を終息させたとする中国が米国から地政学的優位を奪うきっかけになるとの見方がある。だが中国は他国に信用されておらず、中国自身もこれまでの米国のように世界の厄介事に乗り出す気はない。中国が国際協調路線を歩まず、他国の干渉の排除に努めるだけだと、世界には悲劇が訪れるだろう。

中国は長期間にわたる都市封鎖を徐々に解除し、経済活動の再開へと向かっている。とはいえ、感染拡大の「第2波」が再び訪れない保証はない(写真=AP/アフロ)

 中国にとって2020年は最悪の年明けとなった。武漢で呼吸器系に症状が出る新型コロナウイルスが猛威を振るい、共産党幹部は本能的にもみ消しに走った。

 一部には、この出来事が中国の「チェルノブイリ」になるかもしれないとの予想もあった。かつてソビエト連邦政府が原発事故をごまかそうとしたことがソ連崩壊を早めたように、新型コロナが中国の致命傷になると考えたのだ。だがその予想は誤っていた。

 中国を支配する共産党は最初の失策から立ち直ると迅速に動き、とてつもない規模と厳しさをもって検疫を実施した。都市封鎖は成功したように見える。新型コロナウイルス感染症の新たな感染者は、驚くほど減っている。工場の操業は再開されつつある。中国の感染症研究者らは、ワクチン候補を急いで臨床試験に持ち込もうとしている。もはや公式発表の死者数においては、英国、フランス、スペイン、イタリア、米国の方が、中国をはるかに上回っている。

 中国はこれを「勝利」と自賛する。強力な一党支配のおかげで疫病を制圧した、と大々的に宣伝しているのだ。また世界に医療用物資を供給するなどして、博愛の精神を示しているとも訴える。実際、中国は3月1日から4月4日までに、40億枚近いマスクを提供した。

 また、このようなことも言い始めている。中国の犠牲のおかげで世界はウイルスに備える時間を稼ぐことができた。欧米の一部の国がこの時間を無駄に使ったとしたら、それはその国の統治体制が中国よりも劣っていることを示しているのだ、と。

 欧米の神経質な国際政治専門家の中には、新型コロナ危機の勝者は中国になると結論づけた者もいる。このパンデミックは人類の厄災としてだけでなく、地政学的に米国離れが起こった転換点として記憶されるだろう、と彼らは警告する。

 こうした見方が根付いた一因は、米国の消極性にもある。米国のドナルド・トランプ大統領は、国際的な新型コロナ対策を主導することにはまるで関心がないようだ。過去の米国大統領は、HIV/エイズウイルスやエボラ出血熱に対する対策の指揮をとったが、トランプ大統領は世界保健機関(WHO)が中国寄りだとして資金拠出の停止を宣言した。ホワイトハウスの主が、連邦政府には「絶対的な権限」があると言いながら「私の責任ではない」などと口にする現状では、中国にも影響力を高めるチャンスがあると言える。

日経ビジネス2020年4月27日号 76~77ページより目次