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米国によるイランのソレイマニ司令官暗殺の衝撃が収まり、一時下落した株式市場は反転した。投資家は両国の国内事情から対立はこれ以上激化しないと予測するが、その見方は楽観的に過ぎる。全面戦争には至らずとも対立は激化し得る。世界経済への悪影響はかなり大きいと見るべきだ。

ノリエリ・ルービニ氏
ニューヨーク大学スターンビジネススクール教授兼、経済分析を手掛けるRGEモニターの会長。米住宅バブル崩壊や金融危機到来を数年前から予測したことで知られる。
トランプ米大統領(左)とイラン最高指導者のハメネイ師。妥協点をみつけるのは困難だ(写真=AP/アフロ)

 米国が1月3日、イラン革命防衛隊コッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官を暗殺。イランが同8日、米軍が駐留するイラク国内の基地2カ所に最初の報復攻撃を実施した。その直後、金融市場はリスクオフに動いた。原油価格は10%上昇。米国および世界の株式市場は数%下落。資産の安全な避難先となる債券の利回りは縮小した(編集部注:価格は上昇)。

 米国とイランの対立が続く懸念も、市場に影響が及ぶ可能性も消えていない。にもかかわらず、これ以上の事態の悪化を両国は望まないだろうとの観測から、投資家はすぐに落ち着きを取り戻し、市場は反転した。株価は新たな最高値*1にさえ近づきつつある。

 この市場の反転は、2つの仮定を映し出している。第1に、市場は、イランも米国も本格的な戦争を望んでいないという事実に依存しきっている。戦争となれば、イラン現政権の存続も、米国のドナルド・トランプ大統領の再選も危うくなるからだ。

 第2に、投資家は、両国の対立が経済に与える影響はそれほど大きくないと考えているようだ。

 1973年の第4次中東戦争や79年のイラン革命、90年のイラクによるクウェート侵攻など、過去の石油ショックの頃に比べて、生産資源や消費財としての石油の重要性は各段に小さくなっている。そのうえ、米国自身が今やエネルギーの主要生産国となった。

 インフレが進む見込みも過去数十年になかったほど低い。原油価格が急騰しても、各国の中央銀行が金利を急いで引き上げる可能性はほぼない。