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米国とイランの対立が一挙に激化した。米国がイラン司令官を殺害。イランはミサイル攻撃で応じた。同司令官の殺害が成功だったか否かは、イランによるさらなる報復と代理勢力などの活動が判断材料になる。イランの核開発からも目が離せない。米政権が望んできた中東からの撤収は当面果たせそうにない。

トランプ大統領(中央)。「軍事力は使いたくない」として、イランのミサイル攻撃に報復しない姿勢を示した(写真=ロイター/アフロ)

 米軍が1月3日、ドローンを使った攻撃で、イラン革命防衛隊のカセム・ソレイマニ司令官を殺害した。これを契機に米国とイランは、1979年にイランの首都で米大使館人質事件が起きて以来、最も戦争の危機に近づいた。

 中東は何が起きてもおかしくない地域。それでも、イランの枢要な司令官がドナルド・トランプ米大統領の命で殺害された事実は、イランを動揺させた。イランでは何百万もの人々が、政府に対する不満を脇に置いて、ソレイマニ氏の葬儀に参列し死を悼んだ。

 破壊活動を予告する身の毛もよだつような不気味な脅しが中東から発せられ、それに同調するかのように西側の専門家はイランによる報復を警告した。

 ソレイマニ氏殺害の5日後、イランは報復として、米軍基地2カ所をミサイル攻撃した。ただし死者はゼロ。この攻撃は、イランがメンツを保ちつつ危機の収束を図る試みだったようだ。

 イランの報復がこれで終わるなら、トランプ氏が同8日に示唆したように「ソレイマニ氏殺害はうまくいった」と言えるだろう。確かに、有害な人物をこの世から排除し、イランによる攻撃を封じることは、実行する価値のある行為かもしれない。実際にうまくいったかどうか、今後数カ月間のうちに明らかになるだろう。問題は、トランプ氏も含めて、誰もその結果をあてにすることができないことだ。

司令官殺害は意味があるか

 ソレイマニ氏殺害が成功だったかどうかを判断するための試金石が2つある。第1は、米国の抑止力にどんな影響を与えるか。第2は、イランが中東地域に及ぼす力がどう変化するかだ。

 イランとその代理勢力*が2019年、周囲に軍事的な脅威を及ぼした。ホルムズ海峡でタンカーを襲撃。米軍のドローン2機を撃墜。サウジアラビアの石油施設とイラクの軍事基地を攻撃。いずれの事態もトランプ氏は静観した。

 イランは「代償を求められることはない」と判断し、次第に好戦的で大胆な行動に出るようになった。これに対して米国は1月3日、「殴られたら殴り返す」との意思を改めて鮮明にした。イランが同7日、控えめな報復しかしなかった事実は、同国が、米国の大規模空爆にさらされたくないと考えていることを物語っている。イランが今再びミサイル攻撃を行う可能性は低い。

 だが「米国に報復する」との意思は全く揺らいでいない。革命防衛隊はあからさまな軍事攻撃を避け、サイバー攻撃や代理勢力による自爆攻撃、米政府高官の暗殺などの手段を取るだろう。

 こうした報復を行うのは数カ月先かもしれない。それでもソレイマニ氏殺害の記憶が薄れるにつれイランは、軍事力行使に対する米国の意思を再び試そうとするだろう。通常兵器において劣る勢力が、強者を前に後退するのは常套手段だ。ただし、それは戦いの場に再び戻るため。彼らは、遠征してくる超大国よりも辛抱強い。

日経ビジネス2020年1月20日号 100~101ページより目次