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中国は、返還20周年を迎えたマカオを、香港が模範とすべき“優等生”と評価する。マカオはカジノで世界有数の富裕都市となったが、住民はその恩恵を実感できず、政治的な締め付けも厳しい。こうしたマカオの現状は、中国が望む一国二制度の真の姿を香港や台湾に示している。

マカオは返還20周年を迎えた(写真=ロイター/アフロ)
カジノの恩恵と中国の干渉のはざまで
●返還後のマカオで起きた主な出来事

 アジアの主要な金融センターである香港の、珠江の河口を挟んだその対岸にマカオ(澳門)がある。中国共産党はこの都市を、香港の危機を終わらせるモデルとなる存在と考えている。

 マカオはかつてポルトガルの植民地で、約20年前の1999年12月に中国に返還された。中国政府のある高官は2019年12月3日、マカオは「中央政府の精神」を理解しているとたたえた。裏返せば、香港はその精神を理解していないというわけだ。香港では、民主派による抗議デモが何カ月も続いている。デモはしばしば暴徒化しがちだ。

経済はカジノと本土に依存

 香港とマカオは、表面的には共通する点が多い。どちらも旧植民地で、「一国二制度」の下にある。この制度は「高度な自治」を認めており、そのおかげで両都市に暮らす人々は言論や報道の自由が保障され、本土よりも整った法制度に守られている。

 しかし、この20年の間、マカオは隣り合う香港とは別の道を歩んできた。香港は今、過去数十年において最悪の政治的危機を迎えている。他方、マカオは、1人当たりの富で言えば世界で有数の富裕都市となった。

 マカオの面積はわずか30km2強。人口は香港の10分の1に満たない。中国政府はかねてマカオを「優等生」と呼ぶ一方で、英国の植民地だった香港を問題児扱いしてきた。マカオは2006年に米国のラスベガスを抜き、ギャンブルの中心地として世界最大となった。一方、中国本土への経済依存度は香港よりも高い。マカオを18年に訪れた4000万人の観光客のうち、70%以上が本土からだった。

 中国でカジノが合法化されているのはマカオだけだ。マカオ政府はその歳入の約80%を賭博産業から得ている。しかし、中国経済の減速と米中の貿易戦争、人民元安、さらに香港の抗議活動の影響もあり、マカオの賭博業界は16年以来初めての収入減を覚悟している。

 マカオで活動する著名なポルトガル人弁護士ジョルジェ・メネゼス氏は次のように語る。「マカオの街は小さいが、この街がもたらす意義は大きい。マカオが歩んできた道を振り返ることで、香港市民は、中国政府がどんな未来を自分たちに望んでいるかを知ることができるからだ。台湾の人々にも同様のことが言える」

 「社会実験が順番に行われている。力が比較的弱く、要求も穏健なマカオが最初の実験材料となった。マカオでなら中国政府は何でも望むことができる」(同氏)

日経ビジネス2020年1月6日号 86~89ページより目次