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香港で展開されるデモの勢いが衰えない。逃亡犯条例への反対を超え、「自由」と「香港人としてのアイデンティティー」を守る戦いに発展した。だが習近平政権はこれらを受け入れそうにない。チベットや新疆での行動がこれを示している。

香港のデモではスマートフォンが放つ光も一役買っている(写真=ロイター/アフロ)

 過去4カ月にわたり、200万人もの香港市民が「逃亡犯条例」改正案の撤回を求めてデモに参加した。この数は香港の住民の4分の1を上回る。同改正案は刑事事件の容疑者を中国本土の裁判所に引き渡すことを可能にするもの。一連の抗議活動は、中国共産党が支配する法制度に対するまごうことなき不信任投票だ。抗議活動は効果を発揮し、同条例改正案は撤回されることになった。

 自国の法制度を信用していない多くの中国人にとって、これ以上に明確なメッセージはなかろう。「一国二制度」の取り決めの下で、独立した司法と検閲されないニュースへのアクセスを保証された香港の同胞は、本土の中国人が日々耐えている暮らしには我慢できない。しかし、香港の人々が抱く不満は中国本土には波及していない。

 14億人の中国人が皆同じように考えているわけではないとしても、香港の人々に共感して本土の中国人がデモを行ったとの報道は皆無だ。原因の一つは「逃亡犯条例」改正を巡る論議が起きていることすら本土の中国人は知らないことにあるかもしれない。中国本土では「グレート・ファイアウオール(金盾)」と呼ばれるネット検閲システムが作動しており、インターネット上の情報を24時間体制で監視している。

国内では大成功の宣伝工作

 加えてもう一つ原因がある。数は特定できないながら相当数の人々が、中国のメディアが示すシナリオを受け入れていることだ。「香港の危険な過激分子が、恐らくは米中央情報局(CIA)の資金を得て、祖国を分断しようとしている」とのストーリーである。このストーリーを多くの人々が受け入れている事実は、国民が世界を見る視点を形作るのに中国政府が成功していることを物語っている。

 ただし、中国のプロパガンダを担う機関は、国内では極めて効果的に機能しているが、香港では笑いものになっている。政府関係者は「香港の声なき大衆は中国を愛している」という考えを流布しようとするが、香港の多くの人々はそれを笑止千万なことと見なしている。共産党にコントロールされたグループの行動は往々にして、デモに参加する人々による華々しい抗議活動の成功をまねているにすぎない。